第7弾 カーシェアリングが生み出す、支え合う地域づくりとモビリティレジリエンス(後編)

東日本大震災の被災地では、震災前から地域が抱える問題が、震災によってさらに目立ってきています。震災をきっかけに、様々な団体がこうした問題の解決に向けて取り組んでいます。本連載では、地域の抱える問題を解決するため、大きな貢献をされている個人や団体の活動を全20回にわたって紹介します。


カーシェアリングを通して被災地支援を行いながら、支え合う地域づくりと新しい車文化の創造を目指している一般社団法人日本カーシェアリング協会(宮城県石巻市)。主な事業として、カーシェアリング・コミュニティサポート事業、ソーシャル・カーサポート事業(地域貢献になるようなレンタカー&リース)などに取り組んでいる。また、一般社団法人OPEN JAPANと密接に連携し、東北以外の被災地に対しても支援を行っている。

困っていない人も参加したくなる楽しさ

「そもそもこの事業は、車の貸し出し自体ではなく、支え合う地域づくりを応援することだ。」代表の吉澤さんは、そう強調する。地域グループで車をシェアする仕組みをつくり、それを「コミュニティ・カーシェアリング」と名づけたのは、そうした思いからだ。


実際、7年間の成果は確実に現れている。2018年9月現在、石巻には8カ所にカーシェアリングの拠点があり、それぞれがサークル活動のように自主独立の運営を行っている。年間利用者数は延べ3,300人を超え、会員数も月平均7名のペースで増加中だ。活動メンバーの平均年齢は73歳、総勢200人を超えるメンバーが、カーシェアリングを軸に、生き生きと地域活動に参加している。


サポートセンターの運営は、地元出身のメンバーが中心に担っている(写真左が吉澤さん)

サポートセンターの運営は、地元出身のメンバーが中心に担っている(写真左が吉澤さん)

協会が実施したアンケート調査によると、「住んでいる団地内に仲のいい知り合いがいますか?」という問いに対し、コミュニティ・カーシェアリングを導入していない地域では、「たくさんいる」と答えた人は12%だったが、導入している団地ではその割合が2倍の24%。「少しいる」と合わせれば、7割近い人が地域で親しい人間関係を築けていることがわかった。カーシェアリング事業が、コミュニティの関係構築に効果を発揮しているのだ。


もちろん、買い物や病院への行き来の際、移動が便利になっていることは確かだが、実は困っていない人も参加しているのがコミュニティ・カーシェアリングの特徴だ。「みんなで行く買い物はピクニックみたいで楽しい」といった声もあり、必ずしも移動の足を補うためではなく、楽しさを求めて参加している人も多いのだという。


カーシェアリングをスムーズに運営するには、細かい決めごとも必要だ。吉澤さんら協会スタッフはサポートはするが、メンバー自身で話し合って進めていくことを大事にしている。「毎月『おちゃっこ』しながら、運営状況を確認したり、次の旅行の計画を立てたり、みなさん楽しそうにしている」(吉澤さん)という。


全国の被災地に車を届け続ける

地元・石巻で成果を上げてきた協会は、他地域に対してもさまざまな貢献を行っている。特に力を発揮しているのが、県外の災害支援活動だ。石巻から遠く離れた熊本地震(2016年4月)や九州北部豪雨(2017年7月)の際にも、地域と協力しながら車の貸し出しという面から復旧・復興を支援してきた。つい先ごろ、2018年6月末から7月上旬にかけて西日本を襲った豪雨でも、合計98台(11月2日現在)もの車を現地に届けた。


ただ、災害支援活動においては、車を集めて現地に運ぶだけでは不十分だ。そのため、安心して使ってもらえるよう、日本カーシェアリング協会が車の名義変更をして、自動車保険に加入するところまで担っている。実際の貸し出し実務は、避難所や被災現場で行うことが多い。少しでもスムーズに手続きができるよう、ポータブルプリンターを持ち込んで事務作業にあたることもある。


西日本豪雨の場合、岡山県知事の強力なバックアップもあり、98台のうち半分近くは県内のディーラーからの寄付で賄うことができた。石巻からは、10台を日頃から協力関係にあるオートバックスの積載車で現地に運んだ。残りは、全国の各地域から寄付で集めたという。


また倉敷市(岡山県)では、避難所となっている体育館に「岡山災害サポートカーステーション」を設置し、カーシェアリングの周知や貸し出し拠点として機能している。地元の報道機関や行政の協力もあり、周知に関する連携はかなりスムーズに進んだという。


西日本豪雨の被災地でも活動を実施。写真は貸し出し手続きを行っている様子。

西日本豪雨の被災地でも活動を実施。写真は貸し出し手続きを行っている様子。

自然災害の多い日本だが、各地の行政機関に災害時のカーシェアリングに関するノウハウはほとんどない。避難所や仮設住宅の運営はできても、車不足に対応するノウハウが共有されていないのが現状だ。そこで日本カーシェアリング協会では、石巻で培ってきたノウハウを雛形として、全国の自治体に広げていきたいと考えている。「災害は防ぎきれなくても、その影響を最小限にとどめ、回復力を高めることはできる。カーシェアリングを通して、いわば『モビリティレジリエンス』を高めていきたい」と吉澤さんは語る。


そうした中、協会ではコミュニティ・カーシェアリングの横展開を視野に、他地域への導入支援プログラムを開発した。関心を示している自治体や非営利団体との具体的な協議にも着手している。


2018年7月には、石巻市内でコミュニティ・カーシェアリングに関するシンポジウムを開催した。

2018年7月には、石巻市内でコミュニティ・カーシェアリングに関するシンポジウムを開催した。

他地域への展開に際して、肝となるのは現地のカウンターパートを確保することだ。日本カーシェアリング協会にできることはあくまで「導入支援」であって、現地で実際の運営までを担うわけにはいかない。最初に石巻で始めときにも、「アンケート調査」と称して仮設住宅を回りながら、一緒に取り組めそうなパートナーを探した。西日本豪雨の支援活動の際、愛媛県では社会福祉協議会に任せることができた。こうした経験から吉澤さんは、現地パートナーとの連携体制が成否を握ることを確信している。


日本カーシェアリング協会の持つノウハウは惜しみなく提供し、実際の運営はパートナー団体の支援のもとで地域の人たちが担う。ひとたびこのスキームが動き出せば、過疎化で「交通弱者」が増加する一方の中山間地への解決策としても期待が持てる。


吉澤さんはこの導入支援プログラムをしっかりと軌道に乗せ、協会の事業として確立していきたいと考えている。「今よりもさらに自分たちの自立性を高めていきたい。そうすることで、いっそう効果的に、全国に支え合う地域づくりが広まるお手伝いができると思う。」


<成果を出すためのポイント>

  • ・自らの足で訪問し、地元の方の声に耳を傾け、現地のカウンターパートを確保し連携体制を構築する
  • ・車というリソースを最大限に生かした社会貢献のあり方を考え続ける
  • ・全国への横展開を視野に、汎用性の高いプログラム化を進める
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