第9弾 “一緒につくって、一緒に食べる”料理教室。仮設住宅などで3,400回超、コミュニティの再生支える(後編)

東日本大震災の被災地では、震災前から地域が抱える問題が、震災によってさらに目立ってきています。震災をきっかけに、様々な団体がこうした問題の解決に向けて取り組んでいます。本連載では、地域の抱える問題を解決するため、大きな貢献をされている個人や団体の活動を全20回にわたって紹介します。


味の素グループは2011年10月から、岩手・宮城・福島3県の仮設住宅の集会所などで料理教室などを行う「ふれあいの赤いエプロンプロジェクト」に取り組んでいる。地元の行政や社会福祉協議会、食生活改善推進員協議会、NPOなどと連携し、これまでに約3,470回実施。「食」を通じた栄養改善に加え、コミュニティの再生をサポートしている。2017年4月から、公益財団法人味の素ファンデーションに事業を移管して継続中だ。

4人の社員が常駐、現地の声に耳傾ける

料理教室の参加者を集めたり、現地で手を組む協働パートナーを探したりするうえで、決定打になるような奇策があったわけではなかった。現在、福島県いわき市の拠点を担当する井澤敬道さんは、「一言で言えば、『傾聴』だ。現地のことは現地の人がよく知っている。じっくりと現地の声を聞き、寄り添うことを意識した」と話す。


いわき拠点で活動している井澤さん(右)と飯岡和也さん。

いわき拠点で活動している井澤さん(右)と飯岡和也さん。

現地の声を聞くーー。言葉にするのは簡単だが、実践するのは大変なことだ。大きかったのは、東京から担当者が出張ベースで現地に通うのではなく、現地に拠点を構えたことだった。宮城県仙台市と岩手県遠野市、いわき市の3カ所にそれぞれ拠点を開設し、各拠点に2人ずつスタッフを常駐させた(グループ従業員含む)。なお、遠野拠点は2018年6月末で閉鎖し、機能を仙台に移管したため、現在は2拠点で活動を展開している。


「現地に社員を常駐させたことは、現地との信頼関係を醸成するうえで大きかった。現地に張り付くことで、いろんな情報やニーズが入ってきた」と仙台拠点の山田幹夫さん。例えば、協働パートナー探しでは、より住民のニーズに応えられる体制を整備するため、現地で支援活動をしていたNPO法人ジャパン・プラットフォームに紹介してもらい、住民の個別状況に精通する社会福祉協議会などに協力を打診。そうしたパートナー団体から課題や要望を聞き取りながら、料理教室の企画・運営に役立てた。また参加者を募る際にも、協働パートナーの協力を得ながら、仮設住宅内を回るなどして地道に声をかけ続けた。そうして、少しずつ活動への理解が広がっていったのだ。


仙台拠点でも山田さん(左)、渡部篤彦さんが住民と一緒に現場を支えている。

仙台拠点でも山田さん(左)、渡部篤彦さんが住民と一緒に現場を支えている。

プロジェクトの成否を左右する鍵は、現地での活動だけではなかった。インターナルコミュニケーション(社内広報)も重要な役割を果たしたのだ。齋藤さんは、「社内の一部の人が動いているだけでは活動の継続性は担保できない。いかに社内全体に活動状況や現地の反響を発信して、共感者を増やすかが重要だった」と強調する。


そんな味の素グループ内の共感の広がりを象徴するのが、料理教室に参加する従業員ボランティアの存在だ。グループ従業員やOB・OGから募った募金などを現地までの交通費や宿泊費に充てる仕組みをつくり、これまでに延べ2,877人のグループ従業員がボランティアに参加(2018年11月末現在)。最近になっても初めて参加するグループ従業員が出てくるなど、活動の意義は脈々と受け継がれている。


公益財団法人に事業移管。活動の継続性を担保

そうした中、「ふれあいの赤いエプロンプロジェクト」は2017年4月に公益財団法人味の素ファンデーションに事業を移管した。同財団は、食や栄養改善を通じて社会課題を解決することを目的に立ち上げた組織で、ガーナの栄養改善プロジェクトやベトナムでの栄養士制度創設などに取り組んでいる。その一角に、東北のプロジェクトを盛り込んだのだ。


狙いの1つは、活動の持続性を担保するためだ。株主への説明責任などから、経済的利益や定量的成果を求められるのは営利企業の宿命だ。震災から約7年半という時間が経過する中で、企業各社は営利を目的としないCSRとしての復興支援活動をどう継続させればいいのか。頭を悩ます企業は少なくない。


味の素株式会社広報部の長谷川泰伸さん(ダイレクトコミュニケーショングループ長 CSR統括)は、定量的成果などは「もちろん重要な経営指標だ」としたうえで、「そういったものでは測れない、長く関わっていく必要のある社会貢献度の高い事業がある」と力を込める。それがまさに「ふれあいの赤いエプロンプロジェクト」で、味の素株式会社本体から切り離すことで、活動を継続しやすい環境を整えたのだ。現在は、味の素グループが同財団に拠出した活動資金をベースに、味の素株式会社所属の齋藤さん、重宗さんらを出向させて活動を続けている。


その重宗さんは、「現在は仮設住宅が徐々に閉鎖され、住民は災害公営住宅へと移っている。そこでまた、新たにコミュニティをつくり直す必要がある。その一方、いつまでも被災者にさせないために、地域の人たちに一層の主体性を発揮してもらえるようにサポートする必要もある」と活動を深化させる意気込みを語る。


自主開催増加へ。今年度60回を目標に

こうして「ふれあいの赤いエプロンプロジェクト」は今、8年目を迎えた。現在最も力を入れているのが、料理教室の自主開催を増やすことだ。


NPO法人つながりデザインセンター・あすと長町(宮城)による自主開催の様子。女子大生らも参加。

NPO法人つながりデザインセンター・あすと長町(宮城)による自主開催の様子。女子大生らも参加。

当初から将来的な現地主導の自立運営を想定し、協働パートナーを主催者にしてきた経緯があるが、そこからさらに一歩踏み込み、料理教室の運営そのものを現地のパートナーが行う仕組みに広げようというのだ。味の素ファンデーションのスタッフや味の素グループ従業員ボランティアは派遣せず、食材費や調理器具、レシピ提案などの間接支援にとどめる。自主開催は2018年度、前年度実績の10回から大幅に増やした60回の開催を目指しており、すでに4〜10月の期間に41回開催された。


ただ、「決して簡単ではない。人材、お金、安全・衛生管理などのノウハウ。そうしたリソースが必要」(齋藤さん)だからだ。そのため、現地パートナーに対して運営のノウハウを伝えるセミナーを開催しているほか、自主開催に必要な人材などのリソースが十分にある新たなパートナー探しにも日々奔走している。自主開催に向けたハードルは低くないが、それを飛び越えた先に、「ふれあいの赤いエプロンプロジェクト」はまた新たなステージへと突入する。


味の素の長谷川さん(左)と、味の素ファンデーションの齋藤さん。

味の素の長谷川さん(左)と、味の素ファンデーションの齋藤さん。

<成果を出すためのポイント>

  • ・将来的な自立運営を見据え、現地の協働パートナーを「主催者」にし、ノウハウを伝えたり、レシピを提供したりと側面支援を行う
  • ・“体験型”の料理教室にすることで自然なコミュニケーションを生み、栄養改善だけでなくコミュニティ再生につなげる
  • ・活動を継続させるために意義や成果を社内全体に発信し、共感者を増やす

    • 活動の詳細はこちらから

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