第10弾 晩ご飯を食べに行く気軽さで、東北とのつながりを生み出す(後編)

東日本大震災の被災地では、震災前から地域が抱える問題が、震災によってさらに目立ってきています。震災をきっかけに、様々な団体がこうした問題の解決に向けて取り組んでいます。本連載では、地域の抱える問題を解決するため、大きな貢献をされている個人や団体の活動を全20回にわたって紹介します。


東北のことを思い出すきっかけとなるようにと、関西の大学生が毎月11日の夜に京都で運営する「きっかけ食堂」。東北各地から魚介類や野菜などを仕入れ、生産者の思いやこだわりを来店者に伝えている。食を通して人のつながりを生み出すことで、東北の魅力を発信し、東北に思いを馳せるきっかけとなるよう取り組んでいる。発祥の地・京都以外にも卒業した先輩たちにより広がりを見せている。

参加者が現地を訪問。生産者にとっても大きな励みに

「きっかけ食堂」は、毎月欠かさず東北に思いを馳せる場として開き続け、それまで縁のなかった人たちが東北に目を向けるきっかけをつくっている。「東北のことを知ってもらう」という本来の目的は、十分に果たしているといっていいだろう。


だが、そこからさらに広がりを見せてもいる。食堂を開催する日に、東北の生産者と「きっかけ食堂」をテレビ電話でつなぐなどして、京都にいながらにして東北と触れ合える工夫も凝らしている。その出会いをきっかけに、これまで東北に行ったことのなかった人が、現場を訪れるケースもあるというのだ。


「わざわざ生産者さんを訪ねてくださった人もいる。マスメディアからの情報だとピンと来なくても、ここで知り合った人から直接話を聞くことで、東北に興味を持ってくれる人もいるみたい。お客さん同士で『一緒に行こう』という話になることもあって、とてもうれしい」(奥田さん)


さらに、東北の生産者にとっても確かな励みとなっている。現在、15軒ほどの生産者から食材を仕入れているが、初代メンバーから引き継いだ生産者もいれば、現在の運営メンバーが開拓した生産者もいる。運営メンバーは年に1〜2回、揃って生産者に会いに行っており、それ以外でもそれぞれが都合のつくときに、できるだけ現地を訪れるようにしている。出かける先々で、多くの人が新たな人をつないでくれるおかげで、少しずつ輪が広がってきた。そうやって直接感じた生産者の思いを、毎月の「きっかけタイム」で来店客に伝えている。


「もともとは私たちが東北を応援する気持ちで始めたつもりだったが、実は生産者さんに私たちが応援していただいている面もある。復興庁の『新しい東北』復興・創生顕彰に選ばれたことも初めは恐縮していたが、石巻市(宮城県)の漁師さんが『生産者にとっても誇りだ』と言ってくださったのが励みになった」(奥田さん)


このように、「きっかけ食堂」を通じて、実際に現地との交流が広がり、さらに生産者にとっても大きな励みになっているようだ。


生産者に会いに行くのも大事な活動の1つ。応援しているつもりが、逆に応援されている面もあるという。(石巻市の漁師・菅野善太郎さんを訪ねた際の様子)

生産者に会いに行くのも大事な活動の1つ。応援しているつもりが、逆に応援されている面もあるという。(石巻市の漁師・菅野善太郎さんを訪ねた際の様子)

運営メンバーの「卒業」を逆手に、京都から全国へ

「きっかけ食堂」の運営は、学生が中心に行っている。学生活動ならではの課題として、事業の継続性がある。2代目代表の奥田さんは現在、4回生だ。来年には社会人となり、これまでのように活動を続けることは難しい。自身が初代から引き継いだように、後輩にバトンを託す時期が近づいてきている。


これからは、ますます震災の記憶のない若い学生が増えていく。東北から離れた関西ではなおさら、記憶を継承するのは簡単ではないだろう。そこで、奥田さんらは身近な知り合いに声をかけるだけでなく、ボランティア募集サイトなども利用して、食堂運営に関心のある人を広く集めようとしている。


「私は決してリーダーシップがあるタイプではなく、むしろ逆。代表になったときは、人生最大のプレッシャーを感じていた。でも、一緒に運営しているメンバーに助けられて、ここまで続けることができた」。そう語る奥田さんは、新たな後輩たちが仲間同士で支え合いながら、食堂を続けてくれることを期待している。


一方、運営メンバーが卒業してしまうという宿命は、決して悪いことでばかりではない。実はプロジェクト発祥の地・京都のほか、2018年4月からは東京でも同じく毎月11日に食堂が開かれるようになった。その運営を担っているのは、東京の企業に就職した初代メンバーの原田さんと右近さんだ。さらに、不定期ながら名古屋でも開催が始まっている。


また、客として食堂に来ていた人が主導するかたちで、「きっかけ食堂」とはまた少し違うコンセプトながらも、つながりを大事にする場づくりが石巻市に生まれるなど、京都発の活動が少しずつ全国に広がりを見せている。


東京でも毎月開催されるようになった。若いメンバーのフットワークの軽さが、各地への広がりを生んでいる。

東京でも毎月開催されるようになった。若いメンバーのフットワークの軽さが、各地への広がりを生んでいる。

「月にたった1度の活動でも、東北から離れたところでも、無理なくマイペースにできることがある。だからこそ、これからも何らかのかたちで続けていきたい。食堂の運営以外にも、東北を知ってもらう活動ができたらいい」(奥田さん)


活動のかたちやかかわり方は変わっても、被災地への思いは変わることはない。奥田さんらは、自分の置かれた場所と、東北をつなぐ取り組みを続けていくつもりだ。


<成果を出すためのポイント>

  • ・東北以外の話もできる「ゆるさ」を意識し、様々な人が来店しやすいよう工夫し、来店客同士が気軽に交流できる「きっかけ」を仕掛ける
  • ・運営が無理なく続けられるよう、開催日以外の負担を減らす
  • ・生産者には自らの足で会いに行き、確固とした信頼関係を築く
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