第4弾 3年で6000人超を動員。気仙沼発、”仕事”や”暮らし”に焦点当てた観光プログラム(後編)

東日本大震災の被災地では、震災前から地域が抱える問題が、震災によってさらに目立ってきています。震災をきっかけに、様々な団体がこうした問題の解決に向けて取り組んでいます。本連載では、地域の抱える問題を解決するため、大きな貢献をされている個人や団体の活動を全20回にわたって紹介します。


宮城県気仙沼市で、漁具屋探検や漁師体験などの地域資源を活かした観光プログラムが人気だ。その名も、「ちょいのぞき気仙沼」。地元の水産事業者らで構成する「観光チーム気仙沼」が企画・運営し、開始から3年足らずで累計6,000人超を動員。地域の魅力を再発見し、観光客の誘致につなげている。

”売る意識”と”目に見える成果”をどう生み出すか

観光体験プログラム「ちょいのぞき気仙沼」が現在、直面している課題。その1つは、視察などを目的に参加する団体客に比べ、個人客の動員に苦戦していることだ。2017年度の個人客は全体(約3,000人)の1/3ほどにとどまった。しかも、その多くが市内や近隣地域からの日帰り客であるため、宿泊につながらないケースが多いという。ホテル業界を含めた地元経済への影響を考えれば、宿泊客を増やすことが重要だ。


また、プログラムへの参加事業者は増えているが、それぞれ本業の合間を縫って活動していることもあり、まだ参加客を常時受け入れるのには不十分な体制であることも課題になっている。


このため、2017年度から新たな対策の検討を進めてきた。その一手として2018年度から、体験プログラムをニーズ別に三本柱で実施することにしたのだ。従来通り毎週開催する「ちょいのぞきレギュラー」と、個人客の希望日に合わせて予約制で開催する「ちょいのぞきセレクト」、宿泊を前提にしたオリジナルツアーの「ちょいのぞきスペシャル」の3つだ。


「セレクト」では、「参加者が『この日に参加したい」と問い合わせがあっても、その日は開催していないというミスマッチが少なからずあった」(廣野さん)ことから、旅行代理店の役割を担う一般社団法人気仙沼観光コンベンション協会などと連携し、希望日に実施可能なプログラムを組み立てることにした。


一方の「スペシャル」は年3〜4回の開催予定で、2018年は春にツツジの名所として知られる徳仙丈山、夏には離島の大島を巡るツアーを敢行した。廣野さんによると、今のところ決して急激に参加者が増えているわけではないというが、年間を通して運用しながら次年度以降の対策に活かしたい考えだ。


同時に、参加事業者にとって本業の負担にならないようなプログラムの設計や、賛同してくれる事業者を増やす工夫も並行して進めているという。


鮮やかな色で染まるツツジの名所・徳仙丈山。

鮮やかな色で染まるツツジの名所・徳仙丈山。

まだ課題はある。「観光チーム気仙沼」をはじめとする運営サイドの人材不足だ。参加事業者などへのフォローが行き届かず、事業者の士気に影響しかねない事態が生まれているという。


廣野さんによると、活動開始当初の頃と比べると、事業者の一体感が薄れてきているというのだ。現在の運営は補助金に頼っている面が強く、事業者にとっては体験プログラムそのものが単体で利益を生み出すような事業になっているわけではない。震災から月日が経ち、当時の熱気が落ち着いてくるような時期でもある。


ただ、「ちょいのぞき気仙沼」にとって参加事業者のモチベーションは大事な要素だ。廣野さんは、「コンテンツやサービスの質を高め、参加客にはそれに見合った対価をしっかりいただく。今後はそうした”売ること”への意識を高める必要があるだろう」と、少しずつでも事業者側の利益になるような「目に見える成果」につなげていくことの必要性を指摘する。


「気仙沼クルーカード」の顧客データ使い販促強化へ

コンテンツの質の向上や”売る”意識の醸成ーー。それを進めるうえで鍵になりそうなものがある。それは、データに基づいたマーケティングやプロモーションだ。


気仙沼市は2017年4月、「気仙沼クルーカード」の運用を開始した。これは、市内の飲食店や物産店、宿泊施設などの加盟店のほか、全国1,500以上のショッピングサイトで利用できるポイントカード。現在、加盟店は約75社、登録者数は市内外の1万4,000人近くに達し、売上総額は約3億6,000万円、延べ利用回数9万4,500回に上っている(いずれも2018年7月時点)


「気仙沼クルーカード」の登録者数は、1万4,000人近くに達する。

「気仙沼クルーカード」の登録者数は、1万4,000人近くに達する。

このカードを利用することで、何ができるのか。それは、カードの蓄積された顧客の属性や買い物の動向などのデータを分析し、それに基づいて個別にDMやチラシを送るなど、精度の高い販促・プロモーションが可能になるというわけだ。廣野さんは「気仙沼に来る人たちの特性がだいぶ見えてきた感覚がある」とし、「データを分析しながら打ち手の精度を高め、リピーターや消費額を増やせるようにしたい」と今後の新たな展開に期待する。


「東京や大阪のように、ここは黙っていても人が自然に集まるような場所ではない。気仙沼ならではのコンテンツや人とのつながりを大切にしながら、今後も『ちょいのぞき気仙沼』を盛り上げていきたい。最終的に目指しているのは、気仙沼のどこへ行っても、町中に楽しいコンテンツや人がいて、楽しめる。そんなテーマパークのような姿だ」(廣野さん)


<成果を出すためのポイント>

  • ・”地域ならでは”の仕事や暮らしを観光コンテンツにする
  • ・参画してくれる方々の“つながり”を大切にし、事業を継続して行う
  • ・利用者のデータを収集、分析し、マーケティングや販促に活かす
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