第3弾 オーガニックコットンでコミュニティ再生を。いわき市で芽生えた住民主体のまちづくり(後編)

東日本大震災の被災地では、震災前から地域が抱える問題が、震災によってさらに目立ってきています。震災をきっかけに、様々な団体がこうした問題の解決に向けて取り組んでいます。本連載では、地域の抱える問題を解決するため、大きな貢献をされている個人や団体の活動を全20回にわたって紹介します。


NPO法人ザ・ピープル(福島県いわき市)は、「住民主体のまちづくり」を目的に1990年に結成され、古着のリサイクル業に携わってきた。東日本大震災の発生直後から災害支援活動を開始し、2011年夏からはいわき市に住む被災者、東京電力福島第一原発事故による避難者の支援に着手。「人と社会とのつながりを取り戻す」ことをテーマに、その後はオーガニックコットン(綿)の栽培やそれを用いた商品開発などに取り組んでいる。

栽培=NPO、商品販売=企業組合。噛み合う2つの輪

コミュニティの再構築などを目的に始めた、オーガニックコットンの栽培と収穫。通称、「ふくしまオーガニックコットンプロジェクト」。吉田さん率いるザ・ピープルが直面した課題の1つは、国内での原綿の卸価格が想定外に低いことだった。


作業を手伝ってくれる農家の人は自分の畑もあるため、フルタイムでサポートしてもらうのは難しく、人手不足を補うためのスタッフの採用と人件費を捻出する必要があった。事業を継続させるために、必要なことーー。その一手として、吉田さんたちはオーガニックコットンを使って、自ら製品に仕上げて販売することを思いついた。とはいっても、商品企画や販路確保など、ノウハウを持たないザ・ピープルだけで実現させるのが難しいことは明らかだった。


自ら手がけたタオルと手ぬぐい。味わいのある質感やデザインが目を引く。

自ら手がけたタオルと手ぬぐい。味わいのある質感やデザインが目を引く。

そのため、いわき市内の複数のNPO法人などと協働し、「いわきおてんとSUNプロジェクト」を新たに立ち上げ、半年後の2013年2月にはプロジェクトメンバーと有志ら6人で「いわきおてんとSUN企業組合」を設立した。吉田さんは、代表理事を務めている。


その狙いについて、吉田さんはこう話す。「ザ・ピープルでは、オーガニックコットンの栽培を通して人々の交流の場をつくる。企業組合では、商品販売を通してその収益基盤をつくる。その両輪で、事業を進めていけたら」


非営利組織であるザ・ピープルのメンバーの中には、「商品販売の収益を企業組合に持っていかれてしまうのではないか」といった懸念を口にする人もいた。それでも、吉田さんは毎月のミーティングで狙いや思いをメンバーに伝え続けたという。すると、吉田さんの思いは少しずつ仲間たちにも浸透していった。


企業組合を立ち上げたものの、決してトントン拍子で商品の売り上げが伸びたわけではない。立ち上げ当初は、助成金や寄付金など外部支援に頼る部分が大きかった。それでも、ザ・ピープルと企業組合の両者で議論を重ね、商品開発のノウハウも少しずつ蓄積。特に2016年以降は、商品販売による事業収入が軌道に乗り始めたという。


地域住民をはじめとする作り手にも、栽培したコットンが自分たちの手によって商品化されることで、新たな手応えとやりがいが生まれている。農業をはじめとする地域産業が風評被害などに苦しめられている中、このオーガニックコットンのプロジェクトは新たな産業創出の可能性を秘めているといえそうだ。


地域住民やコミュニティをつなぐコットンの栽培と、それを持続的に回していくための商品販売。この両輪はがっちりとかみ合い、今力強く歩みを進めている。


農園では、夏に可憐なコットンの花が咲く。

農園では、夏に可憐なコットンの花が咲く。

“誰も置き去りにしない”地域へ。新たな取り組みも

誰も置き去りにしないーー。国連が2015年に定めた「持続可能な開発目標」(SDGs)で掲げた普遍的な目標を表す言葉だが、これは震災後に地域コミュニティの復興を目指すザ・ピープルの目標とも重なる。


ザ・ピープルは2016年度、5年間に及ぶ活動を検証するために報告書を作成した。活動によって「置き去りにされている被災者・避難者はいないだろうか」との思いで、住民や避難者などへのヒアリングを重ねたという。その結果、「ここで新たな思いで出発しようと思った」などと前向きな回答が数多く寄せられた。一方で、活動を支援する人たちや運営スタッフからは、まだ接点を持てていない住民たちや、地元の関係機関ともっと連携を深めるべきなどとする意見もあったという。


そのうえで、ザ・ピープルのメンバーたちは「私たちだからこそできることは何だろうか」と改めて初心に帰った。吉田さんは、「私たちは『こういうことができたら楽しいね』と旗を振ることができる」と力を込める。


秋、オーガニックコットンの収穫祭に集う地域の人たち。

秋、オーガニックコットンの収穫祭に集う地域の人たち。

そうした中、いわき市内の公営住宅に住む避難者の男性が中心となり、「みんなの畑菜園」の運営に乗り出した。参加者が希望する野菜を栽培し、収穫物を交流イベントなどで振る舞う料理の食材などとして活用する試みだ。トウモロコシやカボチャ、スイカ、枝豆などの農作物をつくり始めている。これにより、地域の交流の輪をさらに広げたい考えだ。


また、東北6県で連携し、生活困窮者に食料を提供するフードバンク事業にも着手した。ザ・ピープルは、米や乾麺、缶詰などの食料を集めるとともに、その食料があることで、相談窓口に困窮者が足を運びやすくなるような仕組みをつくり上げようとしている。
「住民主体のまちづくりをしたい。その思いがあるからこれまで走って来られたし、これからもずっと走っていけると信じている」(吉田さん)


どんな地域にも、様々な事情を抱えた人たちがいる。ときに利害がぶつかり合うようなこともあるだろう。だからこそ、ザ・ピープルはその一人ひとりと向き合い、寄り添う。そうやってこれからも、地域の人たちとともに歩み続ける。


<成果を出すためのポイント>

  • ・地域間交流を促すために、オーガニックコットン農園を開く
  • ・原料栽培だけでなく商品開発・販売にも乗り出し収益基盤をつくり、産業創出に挑む
  • ・地域や関係者の声に耳を傾け、今後の新たな取り組みに活かす
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