第1弾 障害者就労、6次産業化、ツーリズム。”全員参加”の地域づくり(後編)

東日本大震災の被災地では、震災前から地域が抱える問題が、震災によってさらに目立ってきています。震災をきっかけに、様々な団体がこうした問題の解決に向けて取り組んでいます。本連載では、地域の抱える問題を解決するため、大きな貢献をされている個人や団体の活動を全20回にわたって紹介します。


東日本大震災後、ボランティアの緊急支援を目的に結成されたNPO法人・遠野まごころネット(岩手県遠野市)。支援ニーズの変化に合わせ、現在は遠野市のほか、大槌町や釜石市などを舞台に、産業再生や雇用創出をテーマに障害者の就労支援や6次産業化プロジェクトなどに取り組んでいる。

障害者に芽生えたポジティブな変化とは

遠野まごころネットの中心的な活動となっている、ワインをはじめとする6次産業化プロジェクトや商品開発。ノウハウがない中で見出した打開策の1つが、民間企業のCSR活動と連携させる手法だった。
例えば、釜石市などのブドウ園で育てたブドウを使って開発したワイン。これは、流通大手イオングループからブドウの苗を提供してもらうなどの支援を受け、完成品もイオンの販売ルートに乗せて売り出した。ほかにも、国内外の企業や支援団体と協力し、社員研修の一環として果樹園での栽培・収穫作業を一緒に行ったりしている。


障害者を対象にした就労支援センター(釜石市)

障害者を対象にした就労支援センター(釜石市)


そして今、ワインをはじめとする6次産業化プロジェクトは、地域社会に新たな変化を生み出している。
「それまで仕事が続かなかったような人でも、ブドウ園では長く働いてくれる人が少なくない。その後、一般事業所への就職が決まったケースもある。震災で家族を失った人が、立ち直るきっかけになったりすることもあった」。多田さんは、農作業などに携わる障害者のポジティブな変化を感じている。
これまで就労支援で受け入れた人数は26人(2016年度時点)。多田さんによると、農作業や商品開発に関わる仕事は、生きがいや居場所を見つけやすい側面があるという。工場でのライン生産のような画一的な単純作業はやりがいを感じづらいが、農作業では作物を育て、収穫し、商品にして販売する。作業工程が多岐にわたるため、それぞれの障害度合いや能力などに合わせて仕事に向き合えるメリットがあるという。


農園での仕事は、障害者がそれぞれの能力やペースに合わせて作業できる利点があるという。

農園での仕事は、障害者がそれぞれの能力やペースに合わせて作業できる利点があるという。


さらに、実際に商品を販売する物販イベントなどにも参加して消費者と触れ合うことで、社会とのつながりを実感でき、自立・参画意識が芽生えるようにもなるという。多田さんは、こうしたことが「仕事が楽しくなり、長続きするようになる要因ではないか」と指摘する。

知見は海外へ。ネパール地震の被災地で支援活動

遠野まごころネットがこの間に培った活動経験は、国境を越えて海外でも活かされている。
2015年にネパールを襲った巨大地震。遠野まごころネットは被害が大きかったジョロンゲ村に入り、緊急支援を展開。さらに、現地のパートナー団体と連携し、ブロック製造工場を建設したり、養豚・養鶏業、農業などに乗り出したりしている。小口の融資や貯蓄などの金融サービス「マイクロファイナンス」も始めた。貧しい村民が仕事を手にし、生計を向上させるための支援策だ。その過程では、パートナー団体のスタッフ3人を岩手県に招き、復興の現場を視察・研修してもらった。多田さんは、「岩手とネパールのスタッフらによる人材交流は効果的だ」とし、互いに刺激を受け、モチベーションの向上につながっていると指摘する。


多田さんも何度もネパールに入り、今も支援活動を続けている。

多田さんも何度もネパールに入り、今も支援活動を続けている。


岩手の視察・研修に訪れたネパールのパートナー団体のスタッフ。

岩手の視察・研修に訪れたネパールのパートナー団体のスタッフ。


国内で発生した災害支援にも熱心に取り組んでいる。2016年の台風10号による豪雨で岩手県岩泉町や久慈市などが甚大な被害に遭った際、多田さんたちは東日本大震災で活動を共にした県内の複数のNPOと連携し、いわてNPO災害支援ネットワークを立ち上げた。現在は、2018年7月に発生した西日本豪雨の被災地にも、同ネットワークからスタッフを派遣している。

「ナチュラル・ツーリズム」構想に着手

これまで遠野市や大槌町、釜石市で続けてきた、雇用や産業創出をはじめとする地域活性化事業。今後さらに、「観光」を掛け合わせた取り組みも強化していく考えだ。
多田さんがキーワードに挙げるのが、「ナチュラル・ツーリズム」だ。遠野市をはじめとする地域の自然資源を掘り起こし、スノートレッキングや乗馬体験などの体験型の観光コンテンツを企画。さらに、地元でツアーガイドを養成し、新たな雇用にもつなげる構想だ。運営するブドウ園での収穫体験や、レストランでの飲食を組み合わせたツアーなどの観光メニュー化を進め、「地域を巻き込んで経済が回るようにしたい」(多田さん)としている。2019年に開催されるラグビーワールドカップでは、釜石市が試合会場の1つになっている。国内外から多くの観戦客が訪れることが予想されるため、まずはそれに向けて急ピッチで準備を進めている段階だ。
一方、障害者の就労支援と6次産業化にも一層力を注ぐ考えで、釜石市と大槌町で栽培するワイン用のブドウ栽培は収穫量を増やしていく計画だ。
「地域づくりは、元気な人だけがやるものではない。社会的に弱い立場にいる人たちとも一緒にやることが、本当の意味での地域づくりだ。同時に、それぞれの取り組みをビジネスや生活の糧にしていかないと、これからの地域づくりは成り立たないだろう」。多田さんはそう力を込める。
遠野まごころネットの活動は、今後あるべき地域活性化のモデルとなり得るか。その挑戦は、まだまだ続く。


写真左が多田さん。右が臼澤良一・理事長。スタッフとともに。

写真左が多田さん。右が臼澤良一・理事長。スタッフとともに。


<成果を出すためのポイント>

  • ・復興の先を見据え、地域経済の自立支援にシフトする
  • ・障害者や高齢者などの社会的弱者の居場所をつくる
  • ・フェーズに合わせて事業を変化させ、ときにはグローバルにつながる
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