
三菱商事復興支援財団と福島県郡山市が連携協定を結び、2015年にスタートさせた「ふくしまワイナリープロジェクト」。その目的は、果樹農業の6次産業化を支援し、福島県の特産品である果物の生産・加工・販売までを一体運営する新たな事業モデルを構築すること。郡山市に誕生した「ふくしま逢瀬ワイナリー」が“くだもの王国”福島県に新たな彩をそえる。
数年がかりのプロジェクトで郡山産ワインが誕生
プロジェクトのスタートから約4年が経った2019年3月、郡山産ブドウを醸造した初の郡山産ワイン『Vin de Ollage(ヴァン・デ・オラージュ)』が完成した。ワイナリー限定販売ということもあり、発売初日には早朝から行列ができ、わずか数週間で完売。味の評価も上々で、多くの方から期待の声が寄せられた。
初の郡山産ワインの立役者は、財団から醸造委託を受けたワイナリーだけではない。郡山市、地元農家、そして福島大学が連携を図りながら各々の役割を遂行した結果である。
郡山には生食用ブドウ農家はあったものの、ワイン用ブドウを栽培し、醸造するという産業は存在しなかった。そこで、郡山市とワイナリーは情報を共有しつつ、ワイン用ブドウ栽培農家の確保・育成を継続的に展開。プロジェクトに初期から参加しているワイナリー醸造責任者の佐々木宏氏は、農家との交渉過程を次のように振り返る。
「栽培から収穫、そしてワインになるまでには数年が必要です。だからこそ、郡山に新しい産業を創るというプロジェクトの意義、関係者たちの想い、支援体制、果樹農家の役割などについて、時間をかけて説明しました。目指す郡山産ワインの姿とビジネスモデルを具体的に思い描けるよう心掛けたつもりです」
郡山市も農家の説得に当たると同時に、ワイン用ブドウ栽培の補助施策を開始。生産者も「郡山地域果実醸造研究会」を発足、ワイナリーのセミナールームでブドウ栽培の勉強会を継続的に開催し、栽培技術の向上に努めている。関係者の熱心な取り組みは実を結びつつあり、初年度、6軒の地元果樹農家の参加から、2019年9月現在では13軒にまで広がっている。

産学連携の動きも芽生えつつある。福島大学に2019年度に新設された食農学類では、発酵・醸造学分野の研究室も設けられており、2021年度から始まる実践型プログラムではワイナリーとの協働も予定されている。一方でワイナリーはワンデーインターンシップを受け入れて同大学の人材育成に協力するなど、目指すべきプロジェクトの形が次第に整いつつある。
ワイナリー事業を統括する森山潤三氏は「ようやくスタートラインに立てた、というのが正直な気持ち。まずは地元の人々に愛される商品として足もとを固め、将来的には全国や世界にも商品を紹介していきたい。このワイナリーを新たな産業創出と呼べる程度の事業規模にし、交流人口の拡大にも貢献したい」と意気込みを語った。
ワイナリー、果樹農家、郡山市及び福島大学の各者がビジョンを共有し、連携したことで生まれた、郡山産ワインという新しい6次産業。“くだもの王国”福島県における地元産業の更なる復興に向けて、彼らに寄せられる期待は大きい。
一般社団法人ふくしま逢瀬ワイナリー
https://ousewinery.jp/