第6弾 誰もがまちづくりの“主役”になれる。地域の魅力語り合う「釜石◯◯会議」

「行動する市民を増やす」をコンセプトに、多様な世代や立場の市民たちがそれぞれ地域の魅力や実現させたいことを語り合う「釜石◯◯(まるまる)会議」。岩手県釜石市を舞台にした市民主導の取り組みは、町に活気をもたらし、多くの市民に主体性や参画意識を芽生えさせている。

930人が参加、25チームが誕生

小・中学生から中高年、育児中の主婦、外国人など、老若男女が輪になって熱い議論を交わしている。多様な世代や立場の市民らが、交流しながら町の魅力や未来を語り合う「釜石◯◯会議」(以下、◯◯会議)の一幕だ。


◯◯会議の会場は、住民ら老若男女が集まる賑やかな場に。

◯◯会議の会場は、住民ら老若男女が集まる賑やかな場に。

「◯◯」には、参加者一人ひとりの「釜石で◯◯をやってみたい」という願望や思いを当てはめる。そんな意味を込めた。会議では参加者それぞれが釜石で実現させたいことを発表し合い、それに共感した人たちでチームを結成。その後チームごとに話し合いを重ねながら、実際にプランを立てて実行に移す。個人的な願いが実際にプロジェクトとなって実現することで、楽しみながらまちづくりに関わるきっかけを生み出すことなどが目的だ。


参加者が輪になり、釜石でそれぞれ実現したいことなどを話し合う。

参加者が輪になり、釜石でそれぞれ実現したいことなどを話し合う。

◯◯会議がスタートしたのは2015年。当時、すでに被災地では震災復興やまちづくりに関して様々な事業や取り組みが行われていたが、それを主導するのは地域の重鎮ら高齢世代が中心で、若者をはじめ多様な世代の市民が参画し、彼らの意見や考えが反映されるような機会は限定されがちだった。


きっかけは、前身となる「釜石百人会議」の開催だった。2014年、当時の副市長の発案で「市民が100人規模で集まって、まちのことを語り合う場をつくろう」と企画した大掛かりな会議だ。参加者の満足度が高かったため、単発ではなくシリーズで継続することに。それが◯◯会議誕生につながっていく。以来、3年続けて取り組みを重ね、これまでに延べ930人が参加。計25のチームが生まれ、まちに活気を生み出している。


チームを組み、釜石で実現させたいことを発表。その後、具体的なプランを練っていく。

チームを組み、釜石で実現させたいことを発表。その後、具体的なプランを練っていく。

運営主体は、市と市民が共同運営する釜石◯◯会議実行委員会。まちづくり戦略などを手がける市のオープンシティ推進室が事務局となり、民間の会社員やNPO職員など15人の有志市民が実行委員として参画。運営費は市の補助金で賄っており、民間企業からの寄付なども一部活用している。


多彩なアイデアの源は“みんな同じ”

記念すべき初回の◯◯会議は、2015年3月28日。92人が参加した。高校生10人を含む10〜40代の若い世代が8割超を占め、女性も4割近くに達した。◯◯会議が意図した“多様な世代の交流”が実現したかたちだ。


初年度は計4回の会議を開催し、延べ参加者は350人に到達。同じ趣味をもつ人たちがテーマ毎に集まって語り合う「コンセプトBAR with 趣味のハローワーク」や、地元に貢献できる高校生向けのボランティアを企画する「釜石さあべの会」など、9つのチームが誕生した。続く2年目も延べ300人が参加。新たに6つのチームが結成され、実際に企画が実行に移された。


オープンシティ推進室の山口孝太郎さんは、「参加者の満足度はかなり高い」と手応えを口にする。実際、参加者からは「自分の考えがかたちになるのはおもしろい」「一緒にやってくれる仲間ができた」「釜石の人たちともっとつながりたい」といった声が寄せられているという。


初年度は9つのチームが誕生し、実際にプランが実行された。

初年度は9つのチームが誕生し、実際にプランが実行された。


こうした参加者の多さや満足度の高さには、◯◯会議独自のルール作りが影響しているようだ。


「みんな同じ」、「訊く・聴く」、「受け止める・感じる」。◯◯会議では、こうした約束事を定めている。実行委員長の柏﨑未来さん(一般社団法人三陸ひとつなぎ自然学校・理事)は、こう説明する。「まちづくりについて以前から感じていたのは、特定の人の発言権が強く、特に若い人が口を挟みづらい雰囲気があることだった。意見を言っても、認められないだろう。そんな雰囲気があることが悔しくて。だから、子どもであろうが大人であろうが、男性であろうが女性であろうが関係ない。◯◯会議では、参加者全員が平等であることを大事にしている」


そして、どんな声にもまずは耳を傾ける。そうすることで、意見やアイデアを出しやすい環境をつくることも強く意識したという。柏﨑さんは、続ける。「大人たちには『若者や子どもの意見を聞きましょう』と伝えてきた。若者や子どもたちにとっては表現する機会が与えられ、しかも『それはいいね』と大人たちが認めてくれる。自信が芽生え、互いに意見を尊重し合える雰囲気が自然と出来上がっていった。」


◯◯会議で誕生したチームの活動テーマが多岐に渡るのは、きっとそのためだろう。例えば商店街を活性化させたり、防災の重要性を語り合うような震災復興やまちづくりの”王道”のような企画もあれば、鬼ごっこをしながら鍋をつくる「鬼ごっこ鍋」や犬の散歩代行サービスなどユニークな活動もある。


こうして、◯◯会議の存在は口コミや人づてに伝わっていった。ただ、震災から時間が経過するにつれて参加者の意識にも微妙な変化が生まれ、運営側も体制刷新を迫られることになる。こうした変化にどう対応し、その後の事業継続につなげていったのか。

学生や女性の参加増える。中学生が壁新聞で紹介

毎年300人ほどが参加する◯◯会議だが、それでもまだ学生や女性の参加率に物足りなさを感じていた。また、毎年4回ほど開催していた会議に「途中からだと参加しづらい」といった意見があることもわかってきた。そのため、3年目となる2017年度は、どの回からでも気軽に参加できるようにプログラム内容を変更するなど、参加へのハードルを下げる工夫を凝らした。


具体的には、これまで1期で完結させていたプログラムを前・後半の2期に分けて構成。1期あたりの開催数を3回に減らし、1日あたりの会議時間も短縮した。育児中の主婦をはじめ、長時間の会議に参加するのが難しい人も多いからだ。同時に、会場には毎回、子どもを預けられる無料の託児サービスや、喫茶コーナーも設けるようにした。プログラムそのものの内容も、どの回からでも参加しやすいように参加者同士の交流をメインにした構成を意識したという。


その結果、2017年度は2期合わせて280人が参加し、10のチームが生まれた。総数こそ以前とさほど変わらないものの、夏休み期間と重なった時期は初参加を中心に大学生が20人ほどに上ったほか、小・中学生や託児サービスの利用者も少なくなかった。実際、それまで3割前後を行き来していた女性の割合は4割前後に、回によっては5割近くに達するときもあったという。さらに、市在住の外国人や市外からの参加者もそれぞれ10人以上いた。柏﨑さんは、「参加してくれる人たちの層が変わってきて、新たな可能性を感じ始めている」と笑顔で語る。


「私にとって最大のモチベーションは、子どもたちが『楽しかった』『また行きたい』と言ってくれること。」そう話す柏﨑さんにとって、嬉しい出来事があった。2017年度の◯◯会議に参加した中学生が、「郷土の宝」をテーマに壁新聞を制作する学校の授業の一環で、◯◯会議のことを紹介したのだ。新聞の記事には、「釜石には何もないのではなく、知っているつもりでも見ないでいることが多い」といった記述がある。まちづくりを担う将来世代が、釜石の魅力を再発見し、行動する。◯◯会議が、そのきっかけになった瞬間の1つだ。


第3期の◯◯会議に参加したメンバーたち。この一体感が活動の源泉だ。

第3期の◯◯会議に参加したメンバーたち。この一体感が活動の源泉だ。

運営体制も刷新。市民と行政の二人三脚

同時に、この時期から運営体制にも変化が見られた。それまでの運営は、経済同友会を通じて派遣されていた東京などの民間企業出身者が主に担っていた。しかし、次第に彼らも元の職場に戻っていく。そうした中で、地元主導の運営の真価が問われる局面を迎えていたのだ。


柏﨑さんは、「復興が進むにつれて、外から復興支援に来てくれた人たちが徐々にいなくなり、それと同時に終わってしまう活動が多かった。◯◯会議は参加者の満足度も高かったし、そういう風に終わらせたくなかった」と当時を振り返る。


柏﨑さんら市民と行政が議論を交わした結果、生まれたのが現在の体制だ。実行委員の中から全体の企画・運営に携わる幹事3人を設置し、彼らが中心となってこれまで以上に関与する仕組みをつくった。それを事務局の行政が支える、二人三脚の体制だ。幹事の1人である吉野和也さん(「大槌食べる通信」編集長)は、「行政と市民が手を組み、“一緒に作っていく”という信頼関係をつくることは重要だ」とし、こうした関係性が◯◯会議の成果につながっていると指摘する。


行政側も、「例えば定例の実行委員会では委員のメンバーたちが自由に発想や考えを言い合える”柔らかい雰囲気”をつくることを大切にしてきた」(山口さん)という。実際、メンバーはその雰囲気を感じとっているようで、幹事の常陸奈緒子さん(釜石リージョナルコーディネーター)は「枠組みとしては市の事業だが、企画や運営の権限などは大部分を委ねてもらっている。自分たちで考えたことを実現しやすい環境は、達成感につながりモチベーションになっている」と話す。


定期的に実行委員会を開催し、メンバー間で情報を共有している。

定期的に実行委員会を開催し、メンバー間で情報を共有している。

そのうえで、常陸さんはこう続ける。「発足当初は“復興”の意味合いが強く、参加者も普段からまちづくりに関わる人が多く、チームも地域課題解決型の活動が目立った。ただ、特に昨年度からは復興・まちづくりの文脈はありつつも、純粋に“釜石を楽しもう”という空気感に変化してきている。」


そんな◯◯会議は、2018年度も継続開催を予定しており、2019年1月、2月に第5期を実施する計画だ。また今年度は、これまでの活動内容をまとめた冊子の制作のほか、第1期から第4期の○○会議で生まれたチームの活動紹介・体験会「まるフェス」を11月24日に開催する。


冊子は、◯◯会議の存在が「一目でわかる」(山口さん)ような内容に仕上げ、より多くの市民に活動の意義や魅力を知ってもらうのが目的だ。一方の「まるフェス」は、来場者に市内で活動する団体の存在を知ってもらうとともに、○○会議によって生まれたチーム同士の交流を促し、さらに活動を活性化させるのが狙いだ。互いに刺激し合い、釜石の魅力を磨く新たな発想や相乗効果が生まれることを期待しているという。


左から吉野さん、柏﨑さん、常陸さん、山口さん。

左から吉野さん、柏﨑さん、常陸さん、山口さん。

<成果を出すためのポイント>

  • ・世代、性別、国籍などの立場を超えて”平等”に発言機会を与え、あらゆる意見を尊重する
  • ・学生や女性も途中からの参加ができるよう、プログラムや受け入れ態勢などを工夫する
  • ・市民主導を行政が支える”二人三脚”の体制をつくる