Fw:東北 Fan Meeting Vol.4 「愛される地域をつくるリノベーションまちづくり ~花巻と真鶴、二つの実践に学ぶ」

「愛される地域をつくるリノベーションまちづくり ~花巻と真鶴、二つの実践に学ぶ」イベントレポート


 東日本大震災は、沿岸部、内陸部を問わず、東北の多くの地域が直面していた人口減少などのトレンドを加速させました。
 岩手県内陸部に位置する花巻市でも、平成28年のマルカン百貨店の閉鎖は、中心市街地・上町衰退の象徴として衝撃をもたらしました。今回のFw:東北FanMeetingにお迎えする小友康広さんは、マルカンビルの再生に手を挙げ、百貨店時代の名物だった大食堂を復活させたほか、同ビル内におもちゃ博物館を開設させるなど、リノベーションまちづくりの手法で地域に新たな賑わいを生み出しています。
 地元材木店の経営者であった小友さんが、地域のランドマークの再生から、「上町を花巻の産業が育つまち」として発展させる道を選んだ際に思い描いた未来や、そこへ向かうプロセスやアクションはどのようなものなのでしょうか。
 他地域からは、神奈川県真鶴町で役場職員としてまちづくりに携わってきた政策推進課の卜部直也さんをお招きしました。真鶴町は、90年代から「美の基準」によるまちづくりを進める条例を制定し、その後も、人びとの暮らしや営みを町のグランドデザインとして大切にしてきた経緯があります。
 懐かしさを残しながら未来に向けて愛される地域をつくり、受け継いでいく。二つの地域に共通するビジョンと、それぞれが苦労を重ねながら実践してきた歩みから、まちづくりのあり方や行動の起こし方を考えました。

小友康広氏(株式会社小友木材店 代表取締役/株式会社花巻家守舎 代表取締役/株式会社上町家守舎 代表取締役)


 小友さんは、実家の木材店を良くするために別業界での修行することを決意し、成長産業であるスターティアHDでウェブマーケティングを学ばれました。
 リノベーションまちづくりについて「自分の部屋を拡張するように、自分の地域で好きな人やコンテンツの拡張を実現し、尚且つビジネスとして成り立つことだと理解している、今の時代に有効なビジネス手法」とコメントしてくださいました。まちづくりで最大のコンテンツは人であり、誰が何をやるかが大事なこと、特定エリアの遊休不動産を活用して統一ビジョンを掲げ、共感する人を集めることが特徴だそうです。
 小友さんは2015年に「花巻家守舎」を立ち上げました。家守会社とは、リノベーションまちづくりを推進するエリアプロデュース集団のことで、特に重要なのは事業主の事業支援だと指摘されました。花巻駅エリアを「チャレンジする大人が集まるまち」仲間が集まる場所として、自社ビルの1階をカフェバーに作り替え、低コストの投資で利回りが良いリノベーションを実践されました。  2016年に地元老舗百貨店のマルカンビルが閉鎖になります。小友さんは「上町家守舎」を立ち上げてマルカンビル再生に手を挙げ、名物の大食堂を復活させます。また空きフロアに「スケートボードショップ&パーク」「花巻おもちゃ美術館」の開設、さらに「ぎょうざの店夜来香」の事業承継などを行われました。
 2017年からはリノベーションスクールを開催して自分たちのノウハウを町の人たちに共有してこられました。町の人たちが自分たちでビジネスをしながら町を変えていけることが認知されてきたと感じているそうです。最後に「地域の魅力はやっぱり人だと思う」と語ってくださいました。

卜部直也氏(真鶴町 政策推進課 課長補佐)


 真鶴町は、平成6年「真鶴町まちづくり条例」を施行し独自の景観づくりを進めてきました。「美の8原則」「69の美の基準」を定め、真鶴の個性を大事にした街づくりは、バブル経済の当時、一石を投じた試みだったそうです。「美の8原則」には「コミュニティの原則」が含まれ、コミュニティや生活風景が息づいていることが美の基準だと紹介されました。
 平成29年に真鶴町は過疎地域に指定されます。持続可能な地域をつくり活力ある人口構成に変えていくために、現役世代の移住促進が始まりました。2014年の「真鶴町活性化プロジェクト」では役場の若手職員と多世代の住民が協力し「朝市」「お試し移住」ハッカソン「Startup Weekend真鶴」等が提案実行され、その流れで「CREATORS CAMP」も誘致するなど、地元の人とIT技術者、デザイナー、音楽関係者、クリエイターなど新しい人が出会う場が生まれました。
 リノベーションまちづくりは、先にソフトをつくりハードを整備していく順番が大事だと示唆されました。創作拠点としてファブラボ「真鶴 Tech Lab」の開設や町民事業による3週間に及ぶ芸術祭の側面支援も行い、町民たちも住民や観光客といった顧客のニーズに合わせ形を変えながら事業を展開するようになりました。また、官民共同でサテライトオフィスを誘致し、IoT企業も地元事業者と連携し養殖実験(水質管理システム等)を行いました。移住者やサテライトオフィス企業が増えることにより地元がエンパワーメントされている、とのことでした。
 入口を沢山つくることにより、無数のコンテンツの組み合わせが発生しているようです。今は行政だけで課題解決するのではなく、民間ビジネスや町民事業で町民自身が動き、事業が成功するように行政が支援する時代だと指摘されました。
 真鶴町は、美の基準、風景を大事にしようという大きな方向性があり、そこに価値を見出せる人や事業体を仲間としてつながっていく形で移住者が生まれているそうです。真鶴の個性豊かな風景を大事にしながらソフトで地域を変えていくことを行っている、とのことでした。

トークセッション


 ファシリテーターの原亮(エイチタス株式会社)を交え、登壇者とのトークセッションが行われました。
 日本のまちづくりは製造業のようだと指摘されました。「柔軟に変化できることが価値なのにガチガチに決まったものを長い時間をかけて作ってしまう。トライ&エラーを繰り返していくことが町にとって重要」だそうです。また地方は空き家が安いので低リスクで投資ができることも示されました。
 「人との出会いは財産」であることも語られました。地元とつながり、地域にどんな人が住んでいて、どのような事業があるのか収集することが大事だそうです。
 「自分の部屋を拡張するようにコンテンツを生み出す」ことについて、小友さんは、本業ではなく趣味の延長線上という感覚だそうです。卜部さんも「今日紹介した事業は皆、自分たちのできるペースで自分たちがやりたいことをモチベーションにしている」と述べておられました。
 行政に頼らない事業をつくっていくことが持続可能な地域になっていくこと、自分から見えている範囲で楽しめるからこそ面白がって周りの人が集まってきたのではないか、など活発な議論が展開されました。

登壇者と参加者の交流タイム

 登壇者と参加者の交流タイムでは、参加者から「人とのつながりの大切さを改めて思った」「自分でもできそうなことがいっぱいあると感じた」「真鶴は最先端」などの感想が聞かれ、盛況のうちに会が終了しました

参考資料


会議概要

  •  日時:2021年12月21日(火)19:30-21:30
  •  形式:Zoomミーティングによるオンライン会議
  •  参加者数:48名
  •  主催:復興庁
  •  企画運営:エイチタス株式会社