みちのくみっけ Vol.8 会津編 1日目

(Vol.7 陸前高田編はこちら)


取材で何度も東北を訪れている。
そう話すと、「偉いね」と言われることがよくあります。
「東北=ボランティアに行くところ/支援するところ」と思っている人が、それだけ多いということでしょう。
でも、私はその言葉に少し違和感を感じます。
だって、東北には美味しい海の幸も、心癒される風景もあります。
脈々と続いてきた地場産業もあれば、震災後に新しく始まったプロジェクトもあります。
そして、自分たちの手で町を再建しようと奮闘する人々の姿があります。
東北はいつも、私にたくさんの学びと刺激を与えてくれるのです。


旅の目的地としての東北の魅力を、もっとたくさんの人に知ってもらいたい。
そんな想いから、地域で暮らす若者と一緒に、「1泊2日観光モデルプラン」をつくることにしました。
この連載では、実際にそのプランに沿って町を回って体験したこと、感じたことを綴ります。


新しい東北の光を発見する1泊2日の旅。第八回は、歴史と伝統文化が息づく会津エリアのレポートをお届けします。


「浜通り」「中通り」「会津」に区分けされる福島県。会津エリアの冬は雪に包まれます

「浜通り」「中通り」「会津」に区分けされる福島県。会津エリアの冬は雪に包まれます


<1日目>

東京から会津へ

八回目の旅は、8時8分東京駅発のやまびこ127号に乗車するところからスタート。郡山でJR磐越西線快速に乗り換え、11時50分に会津若松に到着しました。


ホームには会津の民芸品である赤べこをマスコットにした「あかべぇ」が展示されていて、「会津に来た!」と気持ちが高まります

ホームには会津の民芸品である赤べこをマスコットにした「あかべぇ」が展示されていて、「会津に来た!」と気持ちが高まります


今回町を案内していただくのは、会津坂下町生まれの谷津拓郎さん。震災後に会津木綿を使ったものづくりを行う「IIE(イー)」というブランドを立ち上げた方です。


IIE代表の谷津拓郎さん

IIE代表の谷津拓郎さん

谷津さん 会津というと鶴ヶ城や喜多方ラーメンのイメージが強いと思います。今回は趣向を変えて、一般的な観光ルートとは違った地元目線で魅力的な場所を選びました。会津美里町から会津坂下町、喜多方へと北上していくドライブコースで、会津に一度来たことがある人や、人と同じ旅では満足できない方におすすめです。

会津若松駅前でレンタカーを借り、さっそく出発


王道ではない会津の魅力を知ることができそうですね。会津若松駅前でレンタカーを借り、さっそく出発です!

世界でも珍しい木造二重螺旋建築。「さざえ堂」を見学

国指定重要文化財の「さざえ堂」


最初に訪問したのは、会津若松駅から車で15分ほどの場所にある飯森山。ここには国指定重要文化財の「さざえ堂」が建っています。


雪で階段がつるつる滑るので、ちょっとハラハラ......

雪で階段がつるつる滑るので、ちょっとハラハラ……


1796年に郁堂和尚が考案建立したさざえ堂。年月を重ねた風格が漂っています

1796年に郁堂和尚が考案建立したさざえ堂。年月を重ねた風格があります


足を踏み入れると床がギシギシと鳴りました

内部は緩やかな上り坂になっていて、足を踏み入れると床がギシギシと鳴りました


最上階の天井。迫力満点!

最上階の天井。迫力満点!


右回りに昇っていくと最上階に出て、そこから左回りで降りていく仕組み。人とすれ違うことなく、一方通行で上下できます。こうした木造二重螺旋構造は日本唯一で、世界にも例のない名建築なのだとか。

谷津さん 江戸時代後期に設計されたと思うと驚きませんか? 途中で挫折して違う道に進みましたが、僕はこれを見て建築に興味を持ち、一時期は本気で建築の道を目指していたんですよ。


飛田 おぉ、そんな思い出の場所なんですね。本当に、どうやって設計したんだろう。すごいなぁ……。

横から見るとこうなっています。文系人間なので、どういう構造なのかいまいちわかりません......

横から見るとこうなっています。文系人間なので、どういう構造なのかいまいちわかりません……


敷地内には白虎隊士の霊像やお墓も。歴史好きの方はぜひ!

敷地内には白虎隊士の霊像やお墓も。歴史好きの方はぜひ!


お土産屋さんからは会津若松の街並を一望できました

お土産屋さんからは会津若松の街並を一望できました

会津若松に来たらやっぱりこれ! 「よしのや食堂」でソースカツ丼を味わう

東山温泉で60年以上の歴史を持つ老舗食堂、「よしのや食堂」


続いて、東山温泉で60年以上の歴史を持つ老舗食堂、「よしのや食堂」へやってきました。ここで注文すべきは、やっぱりソースカツ丼! ごはんの上にシャキシャキの千切りキャベツとカツを載せた会津のご当地グルメです。


「よしのや食堂」のソースカツ丼

谷津さん ここは妻からおすすめされたお店です。ソースカツ丼はガツンとボリュームがあるのですが、よしのや食堂のソースカツ丼は量も味もちょうど良くて、女性でも食べやすいそうですよ。

さっそく食べてみたところ、サクッと軽い衣からジュワ~ッとタレが滲み出してきて、噛み締めたくなる美味しさでした。濃厚だけどしつこくなく、ほどよい甘さ。タレの染みたごはんもまた箸が進みます。ロースも柔らかく、食べづらさがありません。


実は私もソースカツ丼を食べきれなかったことが何度かあるのですが、今回は気づけば完食していました。女性や30歳を過ぎて揚げ物が重くなってきた方、ぜひどうぞ!


みそラーメン(500円)

みそラーメン(500円)も人気メニュー。懐かしい感じのする王道ラーメンで、飽きのこない味です

「草春窯/工房爽」でろくろ体験

「草春窯/工房爽」


ソースカツ丼で満腹になった後は、会津美里町へとドライブ。ここは会津本郷焼の産地で、10を超える窯元が点在しています。そのうちのひとつ、「草春窯/工房爽」を訪問しました。


当主の田崎宏さん。「寒かったでしょう、まずは温かいものを飲んでください」とコーヒーを入れてくれました。ドリップスタンドも自作です

当主の田崎宏さん。「寒かったでしょう、まずは温かいものを飲んでください」とコーヒーを入れてくれました。ドリッパーとサーバーも自作です

飛田 工房の名前はふたつあるんですか?


田崎さん 草春窯は父が開いた窯元で、元々は色絵をしていたんですよ。でも、自分は絵が下手で、納得いくものがつくれなくて。それで、絵付けをやめてフォルムと細工にこだわる白磁器に転向しました。やっぱり、自分がいいなと思えないものをつくっちゃだめですよね。お客様は「草春窯=色絵」というイメージを持っているので、展示会に出展するときは「工房爽」の名前で出しています。自分の作陶ネームのような位置づけですね。

艶やかで美しい白磁の器たち

艶やかで美しい白磁の器たち

飛田 会津本郷焼って、共通した特徴はあるんですか?


田崎さん ありません。窯元ごとに技法は違いますし、つくっているものもさまざまです。多様な作品を楽しめる産地が会津本郷なんですよ。だから、ここを訪れる人には「一軒だけでなく、数軒の工房を巡ってください」と話しています。


谷津さん 問屋さんにも卸しているんですか?


田崎さん 元々は問屋に卸していたそうですが、僕が作陶を始めた25年前には、もう問屋はありませんでした。問屋が無くなったことが多様化のきっかけになったんでしょうね。僕自身は、問屋の注文通りにつくるよりも、自分がお客さんに相対してつくるいまの形を気に入っています。

会津本郷焼

丸みを帯びたフォルムとしっとりした質感が「工房爽」の特徴。思わず触りたくなります

飛田 震災の影響は受けましたか?


田崎さん 物理的な影響はありませんでした。この辺りは地盤がいいので、作品が落ちたり割れたりすることもなく。ただ、震災の映像を見て、「こんなろくろなんか回したって、屁の役にも立たねえじゃん」と、ものすごい無力感に襲われて。しばらくは仕事をする気になれなかったんですが、5月に会津若松で展示をしたとき、大熊町の方だったかな、会津に避難してきた方が話しかけてくれたんです。「私たちね、いつかは戻りたいと思ってるの。落ち着いたらまたこういう器を使いたいわ」って。その言葉にすごく救われました。


そんな大変な境遇の方々が、「いつか戻ったら」と、自分の器で食事をするイメージを持ってくれた。使いたいと思ってくれた。「またつくっていいんだ、つくろう」と思いました。

震災後、会津若松市は浜通りの自治体から約5千人の避難者を受け入れました。その方々との交流が、田崎さんの創作意欲に再び火をつけたのですね。


震災のことや陶芸のことなど、田崎さんとさまざまな話をしていたらいつの間にか一時間ほど経っていました。今回は見学だけでなく、ろくろ体験もさせていただくことになっています。工房に移動して、まずはお手本を見せていただきました。


回転するろくろに田崎さんが手を添えると、魔法のように器が形作られていきます。


回転する磁器土に田崎さんが手を添えると、魔法のように器が形作られていきます。5分もしない内にできてしまったので、「もしかして簡単なのかも?」と思ってしまったほど。


「汚れるといけないから」と、田崎さんがシャツとジーパンを貸してくれました

「汚れるといけないから」と、田崎さんがシャツとジーパンを貸してくれました


でも、いざ自分で触ってみると、田崎さんが何気なく行っていた作業の難しいこと! どう手を動かせばどう仕上がるかがわからず、気を抜くとぐにゃりと形が崩れてしまいます。最初はアドバイスなしで自由に遊んでみたのですが、やっぱりサポートしてもらうことに。田崎さんに手を添えてもらい、触れる場所や指先の力加減をアドバイスしてもらうと、するすると器が出来上がりました。


完成したスープボウル。「かなりいい出来では!」と思うのですが、製作者の欲目でしょうか

完成したスープボウル。「かなりいい出来では!」と思うのですが、つくり手の欲目でしょうか


谷津さんは個性的な一輪挿しに挑戦


スタンダードな器をつくった私とは対照的に、谷津さんは個性的な一輪挿しに挑戦。「最初からそんな凝ったものに挑戦して大丈夫!?」と思いましたが、時間をかけて自分でコツを掴みながら形にしていく谷津さん。田崎さんも「1回目からアドバイスなしでこんなにできるなんて、センスありますね」と驚いていました。


ユニークな形の一輪挿し。IIEの事務所に飾るそうです

ユニークな形の一輪挿し。自宅に飾るそうです


手びねり体験の所要時間は30分~1時間ほどで、2つの作品をつくることができます。完成した作品は後日田崎さんが削って釉薬を掛け、焼き上げた後送ってくれるそう。体験料は2,500円(送料別)。コツを教えてもらって、美しい白磁器が2つも届いてこの価格、とてもお得ではないでしょうか。


体験したのは2月下旬でしたが、3月上旬には完成した作品を送ってもらえるとのこと


体験したのは2月下旬でしたが、3月上旬には完成した作品を送ってもらえるとのこと。楽しみに待ちたいと思います!


田崎さん、ありがとうございました!

田崎さん、ありがとうございました!

元気なお母さんのいるほっこり宿。「農泊 若草物語」でくつろぐ

今回宿泊するのは、喜多方にある「農泊 若草物語」


田崎さんのところにすっかり長居してしまったので、宿に着く頃にはとっぷり日が暮れていました。今回宿泊するのは、喜多方にある「農泊 若草物語」。扉を開けると、家主の猪俣まさえさんが「お待ちしてましたよぉ~! 外は寒いでしょう、入って入って。蔵でごはんにしましょうね。今日はご近所さんにも来てもらったんですよ。賑やかなほうが楽しいでしょう?」と朗らかに迎えてくれました。


海藻の「えご」に花豆の「花嫁ささぎ」、小づゆに饅頭の天ぷら


会津の郷土料理づくし!


海藻の「えご」に花豆の「花嫁ささぎ」、小づゆに饅頭の天ぷらと、会津の郷土料理づくし! 「えっ饅頭にお醤油を!?」「えごって何ですか……?」「わー、これすごく美味しい!」と、驚きと感動の連続でした。野菜はほとんどまさえさんがつくったものだそう。なんて豊かな暮らしでしょう。こうして大皿料理をみんなで取り分けながら食べるのも、大家族の一員になったようで楽しいな、と思いました。


左からまさえさん、小日和さん、鈴木さん、斉藤さん

左からまさえさん、小日和さん、鈴木さん、斉藤さん

飛田 ところで、この家はまさえさんの実家なんですか?


まさえさん そうです、私で5代目。この家は築160年位でしょうか。元々は藁葺の華奢な家だったけど、その時代その時代にどんどん増築されていったんですね。平成14年には隣に家を建ててそっちで暮らすようになったから、部屋は余ってたんです。


飛田 それで農泊を始めようと。


まさえさん そうそう。喜多方はグリーンツーリズムを推進しているんですよ。講習会で農泊を知って、「これは楽しそうだぞ、私もやりたい」とすぐ手を挙げました。

「農泊 若草物語」外観

飛田 どうして若草物語という名前にしたんですか?


まさえさん 若草物語が好きだったのもあるし、人生って物語でしょう。ここを訪れてくれた人と、ほんの少しの時間かもしれないけど交流して、物語がどんどん豊かになっていく。そんな想いを込めてつけました。ものが溢れている時代だけど、やっぱり人とのつながりが一番だと思うんです。


飛田 素敵な由来ですね。震災の影響は受けなかったんですか?


まさえさん 建物も家具も無事でした。でも、風評被害はバッチリ受けましたよ。震災前に入っていた予約は100%キャンセルになったし、学校の体験学習も無くなって、子どもの声がぱったり聞こえなくなりました。


でも、そのおかげで大熊町など原発に近い地域から避難してきた方々を受け入れることができたんですよ。避難所にいた人から、「自分たちは家畜みたいなもんだ。寝る場所食べる場所を与えられて、やることは何もなくて」という言葉を聞いて、「じゃあ農業ボランティアをしませんか」と伝えました。一緒に農業をしたり、一閑張をして販売したり、糸つむぎや織りをしたり。2年間ここに住んだ方もいましたね。

かつてこの地域で盛んだった綿花栽培や機織り。喜多方では農泊を営む女性たちが在来種の綿花栽培に挑戦し、宿泊者に綿花摘みや種とり、糸紡ぎといった体験を提供しています

かつてこの地域で盛んだった綿花栽培や機織り。喜多方では農泊を営む女性たちが在来種の綿花栽培に挑戦し、宿泊者に綿花摘みや種とり、糸紡ぎといった体験を提供しています

飛田 そういう生活をしていたら、辛さや寂しさも紛れるでしょうね。いまは年間何人くらいの方が泊まりに来るんですか?


まさえさん 体験だけの人も含めると、年間300人位。震災前と比べて、個人でいらっしゃる方が増えました。でも、私ひとりじゃ何もできないから、ここにいるみなさんに手伝っていただいているんです。料理を一緒につくってもらったり、体験の講師をしてもらったり。


みなさん特技があって、鈴木さんは縫製が上手で織った生地でクッションをつくってくれました。小日和さんも最近織りを始めたし、そばづくりもしています。斉藤さんは「染織工房れんが」で先生をしているんですよ。


斉藤さん 明日、もしお時間があったらぜひ工房に遊びにいらしてください。会津型の型をお見せしますから。


飛田 わぁ、ぜひ! 明日の楽しみが増えました。

笑い声に包まれた美味しい楽しい食卓。身も心もあたためられて、会津の夜は更けていきました。


食後は小日和さんに織りを教えてもらいました

食後は小日和さんに織りを教えてもらいました


手紡ぎ、手織り、手づくりの贅沢なクッション。今までは仲間内で楽しむだけでしたが、今年から作品の販売も予定しているそうです

手紡ぎ、手織り、手づくりの贅沢なクッション。今までは仲間内で楽しむだけでしたが、今年から作品の販売も予定しているそうです


< 会津1泊2日観光モデルプラン >

1日目

08:08 東京駅発(やまびこ127号)/郡山駅でJR磐越西線に乗り換え
10:55 会津若松駅着、レンタカーを借りる
11:30 「さざえ堂」見学
住所:会津若松市一箕町八幡滝沢155
電話:0242-22-3163
*拝観料:400円
http://www.geocities.jp/aizu_sazaedo/ (2022年12月15日時点 アクセスできなくなっています。)
12:30 「よしのや食堂」でソースカツ丼を味わう
住所:会津若松市東山町大字湯本字居平113
電話:0242-27-2371
*ソースカツ丼900円
14:00 「草春窯/工房爽」でろくろ体験
住所:大沼郡会津美里町瀬戸町甲3175
電話:0242-56-3732
*体験費2,500円
18:00 「農泊 若草物語」に宿泊
住所:喜多方市熊倉町熊倉字熊倉845
電話:0241-22-1835
*宿泊費6,000円
http://www.kitakata-gt.jp/farmers/detail.php?i=2 (2022年12月15日時点 アクセスできなくなっています。)


※2017年2月時点の情報です。訪問する際は、現住所・定休日・営業時間をご確認ください。


(2日目へ続く)

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