第9弾 故郷に帰る日が来るまで、町民に夢を与え続ける


 震災後の全町避難が続く福島県双葉町で江戸時代から続く「ダルマ市」。町民有志の会「夢ふたば人(びと)」は、地域で大切にされている冬の伝統的な祭りを避難先の一ついわき市で途切れることなく開催している。町民に夢と希望を与え、元気な姿を全国の避難者にも届けたい——。若きメンバーの思いと行動力が、「新しい東北」復興・創生顕彰受賞に結びついた。


まちの伝統とにぎわいを避難先で残していきたい

 福島第一原子力発電所の事故による全町避難によって、双葉町民は今もなお故郷を離れ、全国で生活を送っている。町民有志の会「夢ふたば人」の会長を務める中谷祥久さんは、福島県や神奈川県、埼玉県での避難生活を経て、2011年9月にいわき市の仮設住宅居に入居。現在は同市内に新居を構えて家族と暮らしている。

 「双葉町民がバラバラになって暮らす中、これまで行っていた地域行事を避難先で開催することが難しくなっていました」と中谷さん。そこで、当時同じ仮設住宅に入居していた仲間と、いわき市内での開催を目指すことになったという。

 盆踊りは毎年8月に開催。櫓を囲む踊り手や出店(でみせ)に集まる子どもたちでにぎわった。ダルマ市は300年以上前から続く冬の伝統行事で、町民が参加する巨大ダルマ引きやダルマ神輿で盛り上がりを見せた。

町民が再会する場、故郷を感じる場を創出

 団体立ち上げのきっかけは、2011年10月のある日、中谷さんが仲間2人と一緒に酒を飲んでいた時のこと。翌年のダルマ市の開催について話題になったという。「避難生活が続いても『故郷の伝統行事を絶やしたくない』という同じ気持ちがありました」と中谷さんは振り返る。

仮設住宅の住民の中で比較的若い世代だった3人は、故郷を離れ町外で避難生活を送る町民たちに、帰還への夢と希望を持ってもらおうと「夢ふたば人」を立ち上げ、地域の伝統行事開催に向けて動き出した。団体名には、震災で夢や希望を失いかけている双葉町民に夢を与え続ける存在でありたいという想いを込めた。

中谷さんたちは、町役場や商工会、観光協会など関係各所との調整に奔走。2012年1月、中谷さんらが入居する「いわき市南台応急仮設住宅」において「ダルマ市」の開催にこぎつけた。2019年からは「県営住宅勿来酒井団地」に会場を変更し、毎年継続して行っている。

 「団体の立ち上げ当時は、私も所属している双葉町消防第二分団員が中心でしたが、他の町民や町内の企業で働いていた方もメンバーに加わりました」と中谷さん。祭りの当日に県内外から駆けつけて協力を申し出る人もいるという。

盆踊りやダルマ市は、双葉町への帰還が困難な中、町民が顔を合わせる貴重な「再開の場」となった。「関係者や参加者の皆さんから『ありがとう』『お前らがいれば、双葉は大丈夫だ』と声を掛けていただき、とてもうれしいです」と中谷さんは話した。

故郷での再開への想いを次世代にもつなげていきたい

団体の取組やダルマ市の様子は、全国に報道された。「双葉町民の元気な姿を全国に届けることができました」と中谷さん。「新しい東北」復興・創生顕彰受賞のニュースもその一つだと思っている。

2020年3月に町内の一部地域で避難指示が解除されたが、ほとんどの地域では未だ解除の見通しは立っていない。それでも、「将来の目標は、やはり双葉町内で再びダルマ市を開催することです」と中谷さんは力強く語る。

「双葉町で開催するまでは、まだまだ時間がかかるでしょう。頑張れる間は自分たちが活動を続けて、次の世代につないでいけたらと思っています。そして、故郷に祭りが戻ってきたときに、『夢ふたば人』の力を町民のみなさんが感じてくれたらうれしいですね」。




町民有志の会 夢ふたば人 [福島県双葉町]