第7弾 アートの力が支える障害者福祉の充実と地域づくり


  JR常磐線、山下駅前にあるスーパーの壁面に高さ2メートル、幅30メートルの壁画が描かれている。「Happyやまのもと」と題し、合戦原遺跡の線刻画や特産のイチゴなど、山元町の風土や歴史、文化をモチーフにしたアート作品である。

 壁画を手掛けたのは、山元町で障害者の就労継続支援などを行う特定非営利活動法人 ポラリス。設立から2カ月後にスーパーの経営者の依頼を受け、障害者の芸術活動支援を行う団体や京都のデザイナーなどの協力で1年かけて完成させた。

制作には、障害者のほか、地元の支援学校や中学校の美術部の生徒、イチゴ農家やNPO法人の若者など地域住民も参加した。ポラリスで代表理事を務める田口ひろみさんは、「地域の皆さんとアート制作に取り組んだことで、障害者でも地域に貢献できることを山元町の人たちに知っていただくことができました」と話した。


障害者も地域の担い手になれることを実感

  田口さんは、震災前から山元町で社会福祉協議会職員として障害者福祉に関わってきた。震災発生後は、精神保健福祉士の資格を生かし、避難所や自宅、親類宅で身を寄せる障害者や心のケアが必要な人たちを見守る支援などを行った。

 「活動を通して出会ったのが、障害者アートでした」と話す田口さん。全国で活躍する障害者アーティストの支援により、障害者のアート作品を活用した仕事の創出につなげることができたという。障害も力をつければ、地域を助ける側にもなれる——と、アートの力に可能性を感じた田口さんは、2015年にポラリスを設立し、障害者支援と地域づくりに動き出した。

ポラリスの取組の一つに、精神・知的・発達に障害のある人の就労継続支援がある。山元町内外の企業や団体の協力のもと、復興したイチゴハウスの清掃やイチゴの箱詰め作業、スーパーでの資源物回収などの仕事を行っている。

アートの仕事では、近所の空き家を活用したアトリエハウスを拠点に、企業・団体の依頼を受け展示用のアート作品やリーフレット用のイラスト、キッチンカーに描くアート制作などを行った。「障害のある人たちが自分も地域の担い手となることを経験したことで、障害者やご家族にとって、自己肯定感の醸成や前向きに生きる力につながっています」と田口さんは、手応えを感じていた。


全国の障害者福祉のモデルにつながればうれしい

 今回「新しい東北」復興・創生顕彰を受賞したことについて、「被災地の障害者支援と地域づくりの小さな成果をコツコツと積み上げてきた私たちの取組が、地域の復興に貢献していると評価していただいたことはとても光栄なことです」と田口さんは笑顔で話す。

「受賞は共に活動する障害のある人たちも喜んでいます」と田口さんは続けた。障害者の家族や支援するボランティアをはじめ、活動を応援する企業・団体の関係者とも「共に喜び合いたいと思います」と語った。

地域で暮らす人たちの素敵な生き方や働き方の「道しるべ」となる団体を目指し、北極星(polaris)から命名したポラリス。「顕彰がきっかけとなり、障害者福祉活動を始めたい全国の人たちにとっても私たちの取組が『道しるべ』になることができたらうれしいです」と田口さんは話した。




特定非営利活動法人ポラリス [宮城県山元町]
http://polaris-yamamoto.com/