Fw:東北 Fan Meeting Vol.5 「高校生が挑む観光の再生と担い手づくり~次世代の実践に学ぶ地域観光のレジリエンス」
地域における観光産業は、大規模災害によるダメージから復興へ向かう努力を重ねてきました。しかし、外的要因による危機は収まらず、いまは感染症による人流の制限や消費動向の変化で、さらなる逆境にさらされています。
日本三景松島に立地する宮城県松島高等学校は、2014年に観光科を新設。生徒たちが自分で考え、行動する授業を展開し、観光旅行プランの作成、県外や台湾などから松島へ来訪した修学旅行生への観光ガイドも手掛けるなど、地域観光の復興に貢献し、多くの人材を輩出してきました。
今回のFw:東北Fan Meetingでは、次代を担う高校生たちが震災で被害を受けた地域の魅力を伝える活動に取り組んできた経緯と実績について、同校観光科担当主幹教諭の櫻井潤さんに伺いました。また、他地域からは高知県立伊野商業高等学校で教諭を務める吉川佳子さんをお招きし、同校が行っている観光列車の事例などとともに、キャリア教育を基盤としたビジネス教育として、地域や企業と連携している実践例を紹介していただきました。
様々な社会的危機にも工夫を重ね、観光分野で実践を続ける高校生や教員の姿から、地域のレジリエンスを築き、維持する方策や、担い手づくりのあり方を考えました。
インプットトーク
櫻井 潤氏(宮城県松島高等学校 観光科担当 主幹教諭)
松島高校は2014年に観光科を設立しました。「観光人材」の育成を目的としてスタートしましたが、東日本大震災後は「復興人材」の要素が加わった「観光教育」を行われています。「観光資源から学ぶ」がコンセプトだそうです。
観光科の活動として、修学旅行の受け入れをしている「観光ボランティアガイド」、松島パークフェスティバルの運営や司会を行う「ボランティア活動」、地元の事業所やホテルで長期間実習をする「校外実習」が紹介されました。
コロナ禍でも、「こんな時期だからこそ学べることがある」として観光地の啓発活動、観光商品開発、バーチャルツアーが行われました。ツアーの成功は2017年の「Fw:東北 Fan Meeting」に参加した東北の観光地域づくり法人(DMO)とつながり、オンラインツアーのノウハウやアドバイスを頂いたおかげだとコメントしてくださいました。
今後の挑戦として「観光地とSDGsやデジタル・トランスフォーメーション(DX)を組み合わせて仕掛けていきたい。これからも地域の方々の郷土愛を受け取り、高校で今できることを考え、生徒が自身で未来を切り開けるよう地域課題に取り組んでいきたい」と語ってくださいました。
吉川 佳子氏(高知県立伊野商業高等学校 キャリアビジネス科 ツーリズムコース 教諭)
ツーリズムコースは観光を軸に高知が元気になるため、様々な人と関わりながら「人に喜んでもらうにはどうすればいいか?」を考えながら学習をしているそうです。
体験的学習をメインに、社会生活に役立つ「実学」を意識しながら、その道のプロ「本物」を見て実践を繰り返し学んでいくことを目指している、とのことでした。
実習として「高知城ガイド」「観光関連業の職業訓練」「観光紹介動画」が紹介されました。他にも課題研究として「地域活性化プロジェクト」「観光列車でおもてなし」「いの町まちなかプロジェクト」が行われています。コロナ禍でも観光動画の作成やフォトコンテスト等SNSを用いた企画が実行されました。
ツーリズムコースは校外活動や体験活動からの学びを重視していて、人間関係の育成や団結力を高める機会が沢山あるそうです。吉川先生は最後に「生徒が卒業までに自信と社会力を身につけてほしい、との想いで活動しています」とコメントしてくださいました。
トークセッション
ファシリテーターの原亮(エイチタス株式会社)を交え、登壇者とのトークセッションが行われました。
最初にコロナ禍での取り組みについて話し合われました。櫻井先生は「エネルギーが必要だったが生徒が今できることを臨機応変に取り組み、成長できたのではないか」とコメントしてくださいました。吉川先生は、様々な実習の中止に伴い、生徒の気持ちを立て直すケアの必要性について話してくださいました。
観光科やツーリズムコースを選択する生徒の動機については、「人前に出たい、関わりたい」という生徒ばかりではなく「人と話したりコミュニケーションが苦手だったりする事を克服したい」生徒もいるそうです。体験や実践を繰り返すことで自主性や積極性を育てていくことが語られました。
最後に震災復興で高校が果たす役割について話し合われました。東日本大震災から11年が経過しました。生徒達自身は発災時幼かったために震災の記憶は少ないものの、関わっている地域の人々が今でも苦しんでいる様子を目の当たりにして、「地域を良くするために何ができるか」という視点を持てているのではないか、等と活発な議論が展開されました。
登壇者と参加者との交流タイム
登壇者と参加者の交流タイムでは、参加者から「生徒が楽しく学べている生の声が聞けてよかった」「実習について参考になった」「興味深いお話だった」などの感想が聞かれ、盛況のうちに会が終了しました。
参考資料
- 櫻井 潤氏(宮城県松島高等学校 観光科担当 主幹教諭)の資料はこちら
- 吉川 佳子氏(高知県立伊野商業高等学校 キャリアビジネス科 ツーリズムコース 教諭)の資料はこちら
会議概要
- 日時:2022年2月17日(月)19:30-21:30
- 形式:Zoomミーティングによるオンライン会議
- 参加者数:53名
- 主催:復興庁
- 企画運営:エイチタス株式会社