「大規模災害に備えるためのデジタル社会での協働モデル~東日本大震災と熱海市土石流災害の3Dデータ活用に学ぶ」 イベントレポート
東日本大震災から10年を経た現在、災害時におけるデジタル活用は進化を遂げました。東日本大震災で被災状況の記録に使われた土地や建物の3Dデータ化の技術は、今年7月に起こった熱海市の土石流災害でも活かされ、県職員とデジタルに精通した有志のグループが立ち上がり、静岡県が公開した地形のオープンデータを基に盛り土の存在を即座に突き止めるなどの成果を挙げました。
このように、デジタル人材が災害時に有志で集い、即座に行動起こす流れは、東日本大震災から目立ち始めた現象で、熱海でも有志のグループが立ち上がったのは、日本の社会にそうした動きが根付いてきた証でもあります。
3Dデータの活用やデジタル人材と呼ばれる人たちとの協働は、この10年でどのように進化し、今後はどのような動きが求められるのでしょうか。
今回のFw:東北Fan
Meetingは、昨年度開催した「東日本大震災を伝える『みちのく震録伝』」の続編として、災害科学国際研究所の柴山明寛准教授と静岡県交通基盤部政策管理局の杉本直也氏をゲストに迎え、大規模災害に向けてこれから備えるべきデジタル社会での協働モデルを考えました。
杉本 直也氏(静岡県交通基盤部政策管理局 建設政策課未来まちづくり室 イノベーション推進班 班長)
杉本さんは、点群データ(レーザースキャナ等で計測したxyzの位置情報を持つ膨大な点の集まり)でデジタルツイン(実世界のデータを取得し仮想世界で再現する仕組み)のベースを創り、災害や観光に活用するVIRTUAL SHIZUOKA構想を語ってくださいました。
静岡県は東海地震説や南海トラフ地震など「明日起こるかもしれない災害」に備えて点群データの蓄積を進めているそうです。「データがオープンであることが重要!」と何度も強調しておられました。
3次元点群データの蓄積による災害復旧の迅速化についての説明もされました。熱海伊豆山土石流災害で、速やかな災害情報の把握から点群データの有用性が少しずつ周知された、と感じているそうです。「静岡点群サポートチーム」のミッションは、土石流の原因を追究するのではなく、災害後に救援活動をされている方々が二次災害に巻き込まれないことを目指すものでした。
災害が起こった時、公務員が上手く動けないと全体として不幸になってしまう危惧があり、災害時のデータ活用の仕方を整理できれば、と感じているそうです。
柴山 明寛氏(東北大学災害科学国際研究所 災害文化アーカイブ研究分野 准教授)
柴山さんは、まず「災害の真実とは」というテーマで話をしてくださいました。東日本大震災の津波被害はまだ解析が終わっておらず、災害後の写真だけでは、建物等のスケール感や物量の分析、なぜ建物が崩れたか等、わからないことも多くあるそうです。
「点群データや高解像度写真をいつ撮るのがベストか」というテーマでは、学術的に実態解明や要因分析するためには災害発生前後一週間ぐらいの撮影データがあることがベストで、災害発生から時間が経てば経つほど不確定要素が多くなり現象を解明することが難しくなること、早く解明できれば人命救助や復旧も早くなり、オープンデータ化すれば有志で復興の役に立てることを指摘されました。
「防災教育」という観点からは「リアルな現場」の重要性を話してくださいました。直接震災を知らない世代には、点群データ等のヴァーチャル体験で「どのように避難すればよいのか」をリアルに感じてもらうことが大切で、「点群データの可能性は大きい。今後の災害防災対策に役立てられれば良い」とのことでした。
トークセッション
ファシリテーターの原亮(エイチタス株式会社)を交え、登壇者とのトークセッションが行われました。
東日本大震災から10年たった現在の「技術の進歩」については、ドローンやセンサーの高度化と低価格化の効果が大きく、今後はスマホ等で気軽に点群データを取得、投稿できるようになってほしい、との展望が話されました。
また「事前防災」の観点から、点群データの3D版ハザードマップ的使い方として「津波浸水シミュレーション」を用いたVR津波体験により避難意識が高まった事例も紹介されました。
他にも、オープンデータ化の活動もオープンにしていくこと、チームとして公的な人との接点づくりやアカデミアの方を活動に参加してもらうこと等の大切さについて、活発な議論が展開されました。
登壇者と参加者の交流タイム
登壇者と参加者の交流タイムでは、参加者から「タイムリーな話題で参考になった」「オープンデータが役に立つわかりやすい事例だった」「日常で地域の写真を撮っておこうと思います」などの感想が聞かれ、盛況のうちに会が終了しました。
参考資料
- 杉本直也氏(静岡県交通基盤部政策管理局建設政策課 まちづくり室 イノベーション推進班 班長)
- の資料は こちら
- 柴山明寛氏(東北大学 災害科学国際研究所 災害文化アーカイブ研究分野 准教授)の資料は こちら
会議概要
- 日時:2021年11月10日(水)19:30-21:30
- 形式:Zoomミーティングによるオンライン会議
- 参加者数:36名
- 主催:復興庁
- 企画運営:エイチタス株式会社