<2日目>
牡蠣の養殖場を見学! つなかんの乗船体験
気仙沼2日目の朝。朝食の腹ごなしにつなかんの裏山を散策しました。
つなかんの裏にあるツリーハウス「つな丸」。コピーライター糸井重里さんの「東北に100のツリーハウスをつくろう」という発案により、東北ではあちこちにツリーハウスが建っています
ツリーハウス裏手にある八幡神社。手前には昭和8年の津波を伝える石碑が建っています
神社からは鮪立港が一望できました
散策後は港まで降りて、一代さんの旦那さん・和享(やすたか)さんの船に乗船。海上にある牡蠣の養殖場まで連れて行ってもらいます!
波の上をぐんぐん進んでいく船。風が冷たいけど気持ちいい!
色とりどりの浮玉の下にはホタテが吊るされているそう
牡蠣の養殖筏につくと、和享さんがクレーンでロープを持ち上げ、牡蠣の姿を見せてくれました。牡蠣の養殖にはホタテの貝殻を利用しているそうです。
稚貝や海藻がまとわりつき、すごいことになっていました
根岸さん 海藻を取り除くため、漁師さんたちは船の上に60~70度のお風呂をつくって、30秒程浸けるんです。牡蠣も自然界では熱湯にさらされることなんてないから、びっくりして成長しようとします。それで身入りがパンパンになるんですよ。
飛田 手間ひまかけて育てているですね。
根岸さん それだけじゃありません。牡蠣は振動が苦手なのでこうして穏やかな内湾で大きくなるまで育て、その後外洋に持っていきます。そうすると今度は荒波に揉まれてぎゅっと身が引き締まるんです。こうして育てた唐桑の牡蠣は、「もまれ牡蠣」という名前でブランド化されています。
飛田 美味しいものにはちゃんと理由があるんだなぁ。
ぷっくりと肉厚な牡蠣。美味しそう!
飛田 震災のとき、和享さんは船の上にいたんですか?
和享さん そう。下から突き上げられるような、エンジンが壊れたような音がして、そして、辺りを見たらば山が崩れていて。津波が来るっつうときは沖さ逃げろと昔から言われてたもんだから、はるばる沖まで行ったの。2日位いたのかな。港は瓦礫と火事で帰ってこれなかったのよ。大きい船がずっと燃えてたからさ、結局、遠回りして別の浜さ船つけて、陸路で戻ったの。
飛田 和享さんも船も無事でよかったです。でも、筏は流されてしまったんですよね。
和享さん そう、筏も沖へ逃げってった(笑) でも、その年の7月頃だったかな。広島の牡蠣漁師達が来て、支援だっつって筏をつくってくれたんですよ。
根岸さん それまでは交流がなかったのに、「同じ牡蠣漁師だから」と駆けつけてくれたんですよね。
飛田 粋だなぁ。
飛田 養殖はいつ頃再開したんですか?
和享さん 大体1年くらいかな。
根岸さん 私がボランティアをしていたとき、夜になるとやっさん(※和享さん)がふらっと来て「おめえら何食ってんだ、ホタテ食べさせてやっから待ってろ」ってご馳走してくれたんですよ。ずっと山崎パンばっかり食べてたから、嬉しかったなぁ。
牡蠣剥き小屋。この日はお休みでしたが、作業風景を見せてもらえる日もあるそうです
船を操縦する姿がかっこいい!
内湾をぐるりと周り、つなかんへ。こたつに入り、一代さん、和享さんとお茶をしながらお話しました。おふたりの馴れ初めの話になると、「さて、そろそろ行くかな……」と腰を上げてしまった和享さん。どうやらちょっと照れ屋のようです。反対に一代さんは、「"結婚すっぺ"って寄ってきたのよ~! 漁師って見慣れないからかっこよく思えたの!」とニコニコ喋ってくれました。
そうしてひと息ついたら、そろそろ出発の時間です。帰り際、一代さんとりょうすけさんは、前日の斉吉商店さんと同じようにミニ大漁旗でお見送りしてくれました。
「また来てね~!」と大きく旗を振る一代さん
途中、高台にある「漁火パーク」の駐車場に立ち寄り、唐桑半島のパノラマを堪能しました
DIYログハウス「ロカーレ」でランチ
お昼にやってきたのは、林に囲まれたログハウスレストラン「Caffe di capanna Locale(ロカーレ)」。イタリアンをベースにした洋食のお店です。
中に入ると、木の温かみを感じる空間が広がっていました。実はこのお店、オーナーの亀谷さんがボランティアと一緒に建てたのだそう。店内には、建築中の写真が飾られていました。
亀谷さん 被災してしばらくは仮設店舗で営業していたんだけど、数年後には出なくちゃいけない。いっそ自分で建てられないかと考えていたときに、建築系のNPOと知り合って、「ログハウスなら簡単だから」と設計してもらったんですよ。
地元の杉を買って、チェーンソーで切って、皮を剥いて。ボランティアは総勢300人位来てくれたかな。みんな素人なんだけど、やればできちゃうもんだよね。
オーナーの亀谷さん
飛田 自分で建てるってすごいですね。
亀谷さん 普通に店を建てようと思うと数千万かかるけど、ログハウスだったら約1千万円。更に、被災者の場合はそのうち600~700万の補助が出る。自己資金300万と考えると手が届くでしょう。私も一度建ててある程度わかったから、もし「自分で家や店を建てたい」という人がいたら週末だけ手伝いたいと思っているんですよ。
飛田 再建を諦めていた人も、自己資金300万と聞いたら奮起できそうですね。希望が持てる話だなぁ。
亀谷さん そう、やってみると楽しいと思うから、挑戦してほしいんだよね。
菜の花とベーコンのクリームソースパスタ。自家製の全粒粉パンつき
飛田 パスタやパンも美味しいです。
根岸さん 気仙沼というと「寿司! 海鮮丼!」というイメージがあると思いますが、こういう美味しい洋食のお店、雰囲気が良くて落ち着けるお店もありますよ、と紹介したくて。実際に住んでいると、家で魚を食べることが多いから、外食するときはロカーレさんのようなお店に行きたくなるんですよ。私たち移住者にとって、貴重な存在なんです。
「気仙沼さかなの駅」で旬の食材を購入
もう旅も終盤です。お土産を買うため、田中前地区にある「気仙沼さかなの駅」に立ち寄りました。
気仙沼さかなの駅協同組合マネージャーの尾形誠さん
尾形さん さかなの駅は、津波により被災した8店舗が力を合わせて開設した商業施設です。地元企業が持っていた倉庫をお借りして改装しました。仮設ではなく、本設での共同店舗のオープンはおそらく被災地で一番早かったんじゃないでしょうか。「気仙沼で魚を買えるところができた」「これで気仙沼に活気が戻って来る」ととても注目していただきました。
根岸さん ここは地元向けのお店なので、すごく安くて新鮮なんですよ。
尾形さん 私もここで働くようになってから、刺身をそれまでの倍食べるようになりました。安くて美味しいもんだから、つい。私たちは「気仙沼の台所」を目指して営業しているんですよ。お電話でのご注文も承りますし、もちろん全国への発送も行っています。ぜひ、気仙沼の旬を買うならさかなの駅へ。そうお伝えしたいです。
こちらはマグロ専門店「カネマ」のカジキマグロ。「地元の人はみんな"カネマなら間違いない"と言いますね」と根岸さん
カネマの人気商品・「けせんぬま まぐろしぐれ煮」。常温で持ち帰ることができます
気仙沼の地酒が全種類揃う「酒のサイシン」。お酒のほか、気仙沼の地場産品も扱っています
ふわふわのパンに懐かしいピーナッツバターが入った「気仙沼クリームサンド」。気仙沼のソウルフードです
気仙沼港で水揚げされた魚介類が豊富に揃う「気仙沼生鮮館やまひろ」
"ゴッコ"(ホテイウオ)の吸盤を見せてくれました
気仙沼以外では滅多に食べられないサメの心臓「モウカの星」。1日目に購入して宿でお刺身にしてもらうのもいいかもしれません
渡辺謙さんのお店・「K-port」のぜんざいで一服
再び気仙沼中心部へと戻ってきました。最後に訪れたのは、気仙沼港の目の前に佇むカフェ「K-port」。俳優・渡辺謙さんが「心の港」をプレゼントしようとつくったお店です。
店長の熊谷さん(右)とスタッフのみなさん
飛田 謙さんがここへ来ることもあるんですか?
熊谷さん 日本にいるときは月1位で来てくれますよ。普通に料理を運んでくれたりしますし、お客さんから握手やサインを求められると気前良く応じています。めちゃくちゃ気さくな人なんです。
飛田 たまたま居合わせた人はラッキーですね!
熊谷さん 地元店とのコラボも定期的に行っています。謙さんファンは熱心な方が多いので、コラボしたお店にも興味を持って行ってくれたりするんですよ。謙さんの知名度を上手く使って、気仙沼を紹介する役割を果たしていけたらと思っています。
「気仙沼と魚沼の夫婦ぜんざい(380円)」。気仙沼「あずきやさん」の粒あんと、謙さんの故郷・新潟魚沼のお餅のコラボレーションです
「今まで気仙沼になかったものを」と提供するようになった「デザートピッツァ(500円)」
窓からは工事中の港の様子が見えます。パソコンを持ち込んでの作業や長居もOKとのことなので、時間が余ったらここでゆっくり旅の思い出に浸るのも良さそうです。
根岸さんと旅の振り返り
さて、これで楽しかった2日間の旅も終了です。最後に、改めて根岸さんの話を聴かせてもらいました。
飛田 根岸さんは、震災が起こったとき大学一年生だったんですよね。どうしてボランティアに来ようと思ったんですか?
根岸さん テレビから流れてくる映像を見て、「これはただごとじゃないな」と思ったんです。千年に一度の大災害と言われていたし、自分の目で見て伝えていかないといけないと思いました。「被災地の人を助けたい」という想いより、言葉は悪いけど好奇心に近い気持ちだったかもしれません。
飛田 実際に訪れてみて、どうでしたか?
根岸さん そのときに私が会った気仙沼の人たちは、底抜けに明るかったんです。一代さんなんて、「みんな、来てくれてありがと~っ!!」て、めちゃくちゃテンション高くて。「どん底に落ち込んでいる人たちに、何て話しかけたらいいんだろう」と心配していたけど、杞憂に終わりました。
それで、「この人はなんでこんなに強いんだろう」「もっと知りたい」と思って、何度も通うようになったんです。金曜日に授業が終わった後バスに乗って、土・日・月と唐桑で過ごして、ということを繰り返していました。
飛田 移住するのに迷いはなかったんですか?
根岸さん 東京で内定ももらっていたので、めっちゃ迷いました。でも、震災から4年が経った頃で、復旧が落ち着きはじめて「さあ今から町をつくっていこうぜ」というエネルギーが町中に漲っていたんですよ。就職してスキルを身につけてから気仙沼に戻ってくる選択肢もあったけど、それじゃ遅いんじゃないかと。自分が心からかっこいいと尊敬できる大人たちと一緒に、0から1をつくる仕事がしたいと思ったんです。
飛田 気仙沼の魅力って、どういうところにあると思いますか?
根岸さん ひとつは、誰かが「こういうことしたい!」と旗を立てると、みんなその周りに集まって協力してくれるところ。もうひとつは、特に唐桑がそうなんですが、古き良き文化や風習、暮らしが残っているところ。海を中心に町や暮らしが成り立っていて、朝起きると波の様子を見てその日の予定を決める漁師さんたちがいて。自然に抗うことなく調和した暮らしをしているんです。それは唐桑の大きな魅力だから、他地域にも、次世代にも伝えていきたいですね。
亡くなった人も海が見られるように、唐桑では見晴らしの良い場所にお墓が建てられています
飛田 観光で気仙沼に来る人に向けて、伝えたいことがあればお願いします。
根岸さん 今回は、気仙沼の魅力的な人に会えるようにプランを組みました。気仙沼の飾らない日常を楽しんでもらえたらと思います。それで、一度来ていいなと思ったところがあったら、ぜひもう一度訪れてそれを深めてほしいです。できれば一週間、一ヶ月と滞在してほしい。そうすると、人間関係が濃くなって、町の見え方が変わるから。そうやって、地元の人と、移住者と、ときどき来てくれる人と、みんな一緒になって町をつくっていけるといいなと思います。
すっかり気仙沼に溶け込んでいた根岸さん
旅を終えて
根岸さんも話していた通り、町の人の持つエネルギーに圧倒されっぱなしの2日間でした。東北沿岸部を訪れると、よく「町を元通りにするのではなく、震災前より良い町にしよう」という言葉を聞きます。でも、気仙沼は目指しているレベルが違いました。元通りを通り越して、世界に通用する町にしようとしているのです。
もしかするとそこには、気仙沼の漁港が日本の遠洋漁業の基地であることが関係しているかもしれません。漁師たちは世界中の海を旅してきた人たちで、船の乗組員も国際色豊か。町を外国人が歩いていても物珍しそうに見られたりしません。気仙沼の人たちにとっての諸外国は、どこか抽象的で遠い存在ではなく、自分たちの暮らしとつながった、「地続き」ならぬ「海続き」の存在なのでしょう。
そして、そうやって多様な人と交流してきた歴史があるから、観光客や移住者をすぐ懐に招き入れ、仲間にしてしまうのだと思います。
根岸さんが働く「一般社団法人まるオフィス」や、まるオフィスが気仙沼市から委託を受けて運営する「気仙沼移住・定住支援センター」では、移住希望者向けに住居・仕事を紹介したり、交流会を開いたりしています。今回訪れた場所を案内するツアーも計画中で、希望すれば浜甚句の練習やからくわ丸の集会にも連れて行ってくれるとのこと。興味を持った方はぜひ、問い合わせてみてください。
一般社団法人まるオフィス http://maru-office.com/
気仙沼市移住・定住支援センターMINATO http://www.minato-kesennuma.com
< 気仙沼1泊2日観光モデルプラン >
1日目
7:56 | 東京駅発(はやぶさ101号)/一ノ関駅でJR大船渡線に乗り換え |
11:47 | 気仙沼駅着、レンタカーを借りる |
12:15 | 斉吉商店「ばっぱの台所」でばっぱの手料理をいただく 住所:気仙沼市本郷6-11 斉吉商店2階 電話:0226-22-0669 *1人2,000円(4人以上で予約可/2日前までに連絡) http://www.saikichi-pro.jp/bappa |
13:30 | OCEAN BLUEで藍染め体験 住所:気仙沼市新町2-1 電話:080-6253-8161 *参加費3,000円(一週間前までに要予約) http://k-oceanblue.com/ |
15:30 | aqua labo kesennumaでサメの歯のキーホルダーづくり 住所:気仙沼市古町1-19-18-101 *参加費1,800円 http://www.aqua-labo-kesennuma.com |
17:00 | 唐桑御殿つなかんにチェックイン/女将と一緒に夜ごはん 住所:気仙沼市唐桑町鮪立81 *宿泊費8,000円 http://moriyasuisan.com |
2日目
8:00 | 宿で朝食後、つなかん周辺を散策 |
10:00 | つなかんの乗船体験 *体験料10,000円(6人まで) http://moriyasuisan.com/experience/#01 |
12:00 | ログハウスレストラン「ロカーレ」でランチ 住所:気仙沼市上田中2-4-7 電話:080-6038-0437 *菜の花のクリームパスタ 1,000円 https://www.facebook.com/Locale.aceport/ |
13:30 | さかなの駅でお土産を購入 住所:気仙沼市田中前2-12-3 電話:0226-21-1231 http://sakananoeki.com |
15:00 | 渡辺謙オーナーのカフェ「K-port」で一服 住所:気仙沼市港町1-3 電話:0226-25-9915 *ぜんざい380円、デザートピッツァ500円 http://www.k-port.org (2022年12月15日時点 アクセスできなくなっています。) |
16:00 | レンタカー返却 |
16:15 | 気仙沼駅発(JR大船渡線)/一ノ関ではやぶさ108号に乗り換え |
19:56 | 東京駅着 |
今回の旅の費用
東京からの往復交通費(レンタカー代含):39,000円~
宿泊費:8,000円
体験費:13,800円
飲食費:3,880円
お土産代:4,000円
合計:68,680円~
※2017年2月時点の情報です。訪問する際は、現住所・定休日・営業時間をご確認ください。
「唐桑御殿つなかん」の営業の状況については、同社のホームページをご覧ください。
http://moriyasuisan.com/