みちのくみっけ Vol.2 大槌編 1日目

(Vol.1 南三陸編はこちら)

取材で何度も東北を訪れている。
そう話すと、「偉いね」と言われることがよくあります。
「東北=ボランティアに行くところ/支援するところ」と思っている人が、それだけ多いということでしょう。
でも、私はその言葉に少し違和感を感じます。
だって、東北には美味しい海の幸も、心癒される風景もあります。
脈々と続いてきた地場産業もあれば、震災後に新しく始まったプロジェクトもあります。
そして、自分たちの手で町を再建しようと奮闘する人々の姿があります。
東北はいつも、私にたくさんの学びと刺激を与えてくれるのです。

旅の目的地としての東北の魅力を、もっとたくさんの人に知ってもらいたい。
そんな想いから、地域で暮らす若者と一緒に、「1泊2日観光モデルプラン」をつくることにしました。
この連載では、実際にそのプランに沿って町を回って体験したこと、感じたことを綴ります。


新しい東北の光を発見する1泊2日の旅。第二回は"サケのふるさと"大槌を訪れました。

サケを塩漬けにして干すことで保存食とする「新巻鮭」発祥の地・岩手県上閉伊郡大槌町

サケを塩漬けにして干すことで保存食とする「新巻鮭」発祥の地・岩手県上閉伊郡大槌町


< 1日目 >

東京から大槌へ

東京から大槌へ


東京駅から新花巻駅まで、新幹線で3時間弱。JR釜石線に乗り換え、列車に揺られること2時間弱。そうして着いた釜石駅から、更に車で30分。合計5時間強かけてようやく辿り着く町、それが大槌町です。

釜石線の車窓から眺める雪景色。沿岸部に近づくにつれて、景色の中から白が減っていきます

釜石線の車窓から眺める雪景色。沿岸部に近づくにつれて、景色の中から白が減っていきます

岩手県は宮城県や福島県と比べて首都圏からの距離が遠いため、ボランティアに入った人の総数も少なかったと言われています。その分、集まった人は強い想いを持った人が多く、震災から時間が経ってもずっと関わり続けている印象があります。今回大槌を案内していただく吉野和也さんも、そのひとりです。

『大槌食べる通信』編集長の吉野和也さん

『大槌食べる通信』編集長の吉野和也さん

吉野さんは震災後すぐに会社を辞めて大槌入りし、被災したお母さんたちに"刺し子"という針仕事を通して小さな収入と生きがいを得てもらう『大槌復興刺し子プロジェクト』を立ち上げました。刺し子はこれまでに1億円以上の売上を上げ、"復興プロジェクト"の枠を越えて大槌に根付きました。

現在、吉野さんは新たな挑戦として2016年秋に『大槌食べる通信』を創刊し、編集長として働いています。食べる通信とは、地域の食べものと、その生産者を特集した冊子が定期的に届く"食べものつき情報誌"。吉野さんは日々、食のつくり手たちを取材し、大槌を駆け回っています。

飛田 実は来る前にネットで大槌の観光情報を調べてみたんですけど、あんまりピンと来るものがなくて……。ちょっと心配になってしまったんですが、大槌って旅行で訪れても面白い場所なんでしょうか?

吉野さん 安心してください。めちゃくちゃ面白いですよ、大槌! 実はいま、大槌で着地型観光商品をつくろうと準備しているところなんです。今回は、川を遡上するサケと一緒に泳いだり、マタギの家に遊びに行ったり、ガイドブックやネットには載っていない体験をご紹介しようと思います。

飛田 サケと一緒に川を泳ぐ……!? ワイルドな旅になりそうですね。

まずは腹ごしらえ!『さんずろ家』で絶景と海の幸をいただきます!

さんずろ家


釜石で吉野さんと落ち合い、大槌に着いたのは12時半頃。そう、お昼ごはんの時間です。国道45号線沿いに佇むレストラン『さんずろ家』を訪問しました。

吉野さん 町の人が外から来た知人友人を案内するとき、必ずと言っていいほど立ち寄るお店です。

お昼ごはん


浪板海岸の景色


店内に入り、その理由がわかりました。大きな窓一面に広がる、風光明媚な浪板海岸の景色。「海の町に来たんだ」という実感が湧いてきます。

磯ラーメン


吉野さんのおすすめは『磯ラーメン』(750円)。ホタテやカニ、イカやエビといった海の幸と海藻がたっぷり入ったラーメンです。磯の香りを含んだ湯気がふわあっと立ち上り、食欲をそそります。スープは塩仕立てであっさりしていますが、しっかりと魚介の出汁が効いていました。大槌は磯ラーメン発祥の地と言われているそうです。

飛田 新鮮な海の幸をラーメンに入れてしまうとは、なんて贅沢……。つい「刺身や寿司にしないともったいない」と思ってしまうけど、有り余るほど捕れるから、生で食べるのも飽きちゃうんでしょうね。

吉野さん こっちに長く住んでいるとこれが当たり前になっちゃって、贅沢なのかどうかもわかりません(笑)

飛田 う、羨ましい……!

刺身定食

刺身定食『刺身定食』(1,500円)も絶品!

吉野さんのガイドで大槌をぐるりひとめぐり

①震災の被害状況を学ぶ

おなかが満たされた後は、吉野さんのガイドで大槌町内の散策をスタート。まずは町の中心部を見渡せる丘の上から、大槌が震災時にどれだけの被害を受けたのか教えていただきました。

大槌町

吉野さん 大槌町は世帯ベースで8割が被災しました。ここも、震災前は見渡す限り家が建っていたんですよ。高さ15mの津波が波打ち際からこの下まで3分で押し寄せ、全てさらっていきました。

飛田 こうして上から見下ろすと、被害の大きさが一目瞭然ですね……。

大槌町役場旧庁舎

吉野さん 奥に見えるのが大槌町役場旧庁舎です。当時の町長や幹部職員40名が犠牲となり、なんとか屋上に逃げた約20人がヘリコプターで救助されました。旧庁舎を震災遺溝として保存するか解体するか、町民の意見は二分しています。

飛田 吉野さんが大槌に来たとき、町はどんな状態だったんですか?

吉野さん 僕が大槌に来たのは2011年の5月で、まだ建物は倒壊したままでした。街灯も一切なくて、夜は真っ暗。その頃から考えると復興は進んできているなという実感はあります。

いまは、震災前から突きつけられてきた人口減少や衰退といった課題に向き合わなければいけないフェーズですね。

②ひょうたん島・弁天島に上陸

大槌湾に浮かぶ小さな無人島『蓬莱島(ほうらいじま)』


次に向かったのは、大槌湾に浮かぶ小さな無人島『蓬莱島(ほうらいじま)』。人形劇『ひょっこりひょうたん島』のモデルになったと言われ、"ひょうたん島"の愛称で親しまれています。

東日本大震災の大津波により鳥居や灯台は倒壊、島と町をつなぐ数百メートルの防波堤も水没しましたが、社殿や祀られていた弁財天像は流失を免れたそう。"大槌の復興の象徴"として、ひょうたん島には全国から多額の支援が集まりました。現在は鳥居や灯台、防波堤も修復され、歩いて上陸することができます。

『蓬莱島(ほうらいじま)』鳥居


舗装されていないごつごつした岩の上を歩き、海に囲まれた小さな神社に向き合うと、何だか厳かな気持ちになります。何百年も前から、漁師やその家族たちが大漁を祈ってお詣りしてきたのでしょうね。

吉里吉里海岸の弁天島


ひょうたん島に負けず劣らず風情があるのが、吉里吉里海岸の弁天島。真っ赤な鳥居に波が寄せては引く情景は、日本人なら心に響くものがあるのではないでしょうか。津波で島に生えていた一本松は枯れてしまいましたが、祠と鳥居は流されず残りました。ちなみに、この一帯は縄文時代の貝塚があり、ちょっと掘るだけで縄文土器が出土するのだとか。ロマンを感じる場所ですね。

吉里吉里海岸の弁天島。真っ赤な鳥居

③地元鮮魚店を見学

港近くで立ち寄ったのは、季節の鮮魚や手づくりの水産加工品を販売する『越田鮮魚店』。イカの切り身にサンマのみりん干し、ホヤの塩辛など数十種類の商品を扱っています。中に入ると、挨拶もそこそこに「はいこれ、食べてみて」とのしいかを手渡されました。

『越田鮮魚店』。イカの切り身


口の中いっぱいに広がる濃厚なイカの旨味、香ばしさを噛み締めていると、今度は「のしいかづくり、体験してみる?」と誘われました。

干しイカ


右のお姉さんが持っているのが干しイカ、私が持っているのがそれを鉄製ローラーで薄く引き延ばしたのしいかです。こんなに長くなるとは!

イクラ


「お姉さん、手ぇ出して」と言われ掌を差し出すと溢れんばかりにイクラを盛られ、「ちょっと待ってな、いま切ってやるから」と鮭トバを差し出され。この感じ、まるでおばあちゃんの家に来たかのよう。「名刺も渡していないし自己紹介もしていないし、どこの誰かもわからない私になんでこんなに良くしてくれるんだろう?」とびっくりしてしまいます。

スタッフ


ほかのお客さんが商品を買って店を出たときも、お母さんはスタッフの方に「ちょっと待って!いまの人にちゃんとおまけつけてあげた?」と確認していました。お店に来た人はとにかくおもてなしする、という姿勢が徹底しています。旅先でこんな風に優しくされると、嬉しくて一気にその町が好きになってしまうものですよね。

商品としては使わない部分のサケも「自家消費用なんだけど良かったらどうぞ」と持たせてくれました

商品としては使わない部分のサケも「自家消費用なんだけど良かったらどうぞ」と持たせてくれました

④絶景スポットにお土産店など

漁師たちが使う長屋造りの小屋


ホタテも水揚げ後ここに保管されます


港では漁師たちが使う長屋造りの小屋も見学させてもらいました。『大槌食べる通信』で特集したホタテも水揚げ後ここに保管されます。吉野さんはその中からひとつ、ホタテを剥いて味見させてくれました。新鮮なホタテはぷりぷりでシャキシャキ、今まで味わったことのない歯応え。甘みがあって調味料いらずの美味しさでした。

ここは吉野さんが山中をドライブしているときに偶然見つけたという絶景スポット


ここは吉野さんが山中をドライブしているときに偶然見つけたという絶景スポット。普通の人は入らないような道を通るので、探検気分を味わえます。場所は内緒とのことなので、吉野さんにこっそり教えてもらってください。

大槌復興刺し子プロジェクトの事務所


サケ最中


仮設商店街、産直市場『だぁすこ』


お土産を選ぶのも旅の楽しみのひとつ。大槌復興刺し子プロジェクトの事務所、仮設商店街、産直市場『だぁすこ』など、大槌ならではのお土産が買える場所も案内してもらいました。誰に何を買っていこうか、迷ってしまいます。

マタギの家で熊汁を堪能

さて、日も暮れてきたので、そろそろ本日の宿へと移動しましょう。今回は旅館やホテルではなく、吉野さんが日頃からお世話になっているという、マタギの藤原さんのお宅にお邪魔しました。

笑顔が素敵な藤原さんご夫婦

笑顔が素敵な藤原さんご夫婦

旦那さんの勲さんは、平日は会社員として働き、休日はマタギとして山に入っているそう。奥さんのテイ子さんは、勲さんが捕ってきた熊や鹿の肉を丁寧に処理して料理しています。この日も、熊汁に鹿肉の串揚げなど、マタギの家ならではの料理が食卓に並びました。

熊汁に鹿肉の串揚げなど、マタギの家ならではの料理

テイ子さん この天ぷらはね、ちょっと変わってるの。何が入っているか当ててみて。

飛田 ……ん? サクッとしてるけど中は柔らかくて甘くて……柿?

テイ子さん そう、干し柿。意外と合うでしょ?

飛田 こっちは……ビスケットだ! 甘味が際立って、何だかドーナツを食べているような気分です。

テイ子さん 面白いでしょう。せっかく来てくれたから、ほかでは食べられないような遊びの天ぷらを食べてほしくて。

熊汁

飛田 熊汁も美味しいですねぇ。しっかりした旨味があって、でも臭みは全然なくて。やっぱり新鮮だから?

テイ子さん その熊肉はね、今年のじゃないんですよ。2年間冷凍保存していたものを解凍したの。

飛田 えっ本当ですか!? 一度冷凍したものって味が落ちたり固くなったりしますよね? 全然そんな風に感じない……。

テイ子さん 普通の冷凍庫だとだめね。うちではマイナス60度で急速冷凍するから。

揚げ物

勲さん 急速冷凍すると細胞が壊れないから美味しさが保たれるんですよ。肉は半年か一年冷凍保存すると熟成するのか、味がまろやかになるね。どういう作用が働いてそうなるかはわからないけど。何かの本を参考にしたわけじゃなくて、自分の経験から「こうしたら美味しくなる」と学んだものばかりなんですよ。

テイ子さん うちはね、昔苦労したの。5人の子どもが食べ盛りの時に家を買ったからお金が無くて。だからご近所さんから魚や野菜をたくさんいただいたときに、どうにか保たせたくて、冷凍するようになったの。でもお父さんは味にうるさいから、美味しく保存できるよう試行錯誤してね。

飛田 それがこの美味しさにつながっているんですね。

テイ子さん 「料理上手になるにはどうしたらいいですか」って聞かれることがあるんだけどね、「貧乏しなさい」って答えるの。私は貧乏をしたおかげで工夫するようになったから。

大槌の郷土料理・新巻鮭もテイ子さんなりの工夫を加えてつくるのだそう

大槌の郷土料理・新巻鮭もテイ子さんなりの工夫を加えてつくるのだそう

飛田 震災のときはどうされていたんですか?

テイ子さん 地震があったときは外にいたんだけど、お父さんが「津波が来るぞ」って言って、周囲にいた人たちにも声をかけてすぐ逃げたの。

実はね、前日の夕飯のときに、なんでか「もし大地震が起こったら」という話題が出たんですよ。そのときお父さんが「側溝から水が溢れてきたら津波が来る」という話をしていたのね。海のそばで働いていた娘が外に出ると、話の通りに側溝からボコボコと音がしていて、職場の人と慌てて避難したんですって。おかげさまで家族は無事でした。

飛田 間接的にたくさんの人の命を救ったんですね。

テイ子さん うちは山にあるから津波の被害は受けず、親戚や友人が30人位避難してきて、しばらくの間は大家族のように過ごしました。

飛田 電気や水道は止まっていたんですよね。家は無事でも、大変だったんじゃないですか?

テイ子さん 発電機があるし、水は川から汲めるでしょ。食べ物は冷凍していたものがあったし、薪ストーブで煮物もつくって。みんなね、「毎日美味しいものが出てきて幸せだった」って言ってた(笑)

勲さん 鍛冶屋にドラム缶を持っていって、「鹿肉やるから五右衛門風呂作ってくれ」ってお願いしたんだわ。向こうも食べ物が手に入って喜んでくれてな。子どもたちはすごく喜んでたな、キャンプみたいだって。

飛田 まさに自助・共助ですね。

薪ストーブのある土間。鹿の角や熊の手

薪ストーブのある土間。鹿の角や熊の手などが無造作に置かれていました

勲さん だから田舎はいいんだよ。都会のような格好良さも便利さもないけど、災害のときはそんなもの役に立たないでしょう。お金だってそう。大事なのは身の回りの道具で何とかする腕と頭。経験というのが一番人を助けると思うよ。

飛田 世の中はどんどん便利になっていくけど、インフラが止まったときに自分で何とかできる知識や技術を持っておかないとですね。

猟の仕方やその日の猟果、最近読んだ本に出身地の話……。話題豊富なお二人とお話するのが楽しくて、気づけば時計の針は23時を回っていました。翌日も朝から予定が目白押しです、そろそろお開きにしましょう。熱いお風呂に入って体を温め、布団に入りました。


< 大槌1泊2日観光モデルプラン >

1日目

7:16 東京駅発(はやて111号)/新花巻でJR釜石線乗り換え
11:58 釜石駅着/レンタカーで大槌へ 
13:00 さんずろ家で海を眺めながらお昼ごはん
住所:大槌町吉里々々第13地割9-22
電話:0193-44-2413
*磯ラーメン:750円、刺身定食:1,500円
14:00 吉野さんの町内ガイド
・越田鮮魚店
住所:大槌町安渡3丁目76
電話:0193-42-5363
https://www.facebook.com/koshitasengyo/
17:00 藤原さん宅にて夕食を味わい宿泊


※2016年12月時点の情報です。訪問する際は、現住所・定休日・営業時間をご確認ください。


(2日目へ続く)

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