第9弾 ウニの再生養殖を通じて環境問題に取り組む、洋野町の企業の挑戦

取組概要

株式会社北三陸ファクトリー(「ひろの屋」100%子会社)は、「北三陸から、世界の海を豊かにする」をミッションとして、海産物の加工販売・うに再生養殖などを行っています。経営者の下苧坪(したうつぼ)氏は代々、北三陸の水産業と向き合ってきています。
洋野町のうに牧場®のうにのブランディングとともに、うに養殖の技術から生まれた「はぐくむうに®」を作り出し、海外との連携も積極的に行う団体で、2023年には「新しい東北」復興・創生の星顕彰を受賞しています。


「ウニ」とは人間にとってどういう生物か?

――とても初歩的な質問で恐縮ですが、そもそも「ウニ」とはどんなものなのでしょうか

ウニは非常に「二面性」のある生き物です。ウニは非常においしく、育てた人や食べた人が幸せになれる宝物のような顔を持つ一方で、英語では「Sea Uechin」=「海のいたずらっ子」と呼ばれ、海に悪さをしてしまうような側面もあります。海藻類を食い荒らして磯焼けを引き起こし、海を砂漠化させる原因ともなっているものです。ウニは温暖化によって活発化しますし、繁殖力が高すぎて海のなかで増えすぎてしまって、海藻類を根こそぎ食い尽くしてしまうという存在でもあります。ウニは、海藻類も海も荒らしてしまう存在でもあるのです。
だからこそちゃんと密度管理をして、「いたずらっ子」ではなく「宝物」にしていく必要があると感じています。管理をしてきちんと育てられたウニ、特に昆布などの海藻を食べて育ったウニは味わいも優れています。言い方を変えれば、そういう風に変わっていける可能性のある食材でもありますね。

ウニの消費量はもう日本がトップ中のトップですが、ユネスコの世界文化遺産に「WASYOKU」が登録されてから、寿司のブームも相まってマグロともどもウニが取り上げられるようになりました。現在はアメリカでもヨーロッパでも結構食べられるようになっています。

――ありがとうございます。ウニの漁獲量の国内シェアをみますと、北海道・岩手・青森の順で長らくずっと続いていると思いますが、地域・産地によって、ウニの味わいなどには何かちがいがあるのでしょうか?

そうですね、地域によってそもそもウニの種類が違うというところがまずあります。
たとえば北海道だと、「エゾバフンウニ」がよく育ちます。お寿司屋さんで見かける、板にのったウニなどが、このエゾバフンウニですね濃厚でクリーミーな味わいが特徴で、非常に人気があります。

弊社、北三陸ファクトリーが居を構えている洋野町を含めて、三陸でよく獲られているのは「キタムラサキウニ」と呼ばれる種類です。エゾバフンウニはその濃厚さで知られていますが、キタムラサキウニは比較的淡泊な味わいです。キタムラサキウニは、その上品な磯の香りで、非常にエレガントなところが特徴です。
このようにウニはその種類や産地によって味わいが異なります。

数量の面で言えば、北海道の方が圧倒的にウニの漁獲高は高いといえます。ただ、ウニは昆布をエサとしていまして、良質な昆布を食べたウニはおいしく育ちます。その面では、私たちの洋野町の「世界で唯一のうに牧場®」で育っているウニの甘さや旨味は格別です。この「甘味や旨味」は、北三陸ファクトリーのウニを召し上がるお客様から特に高い評価を頂いている部分です。



再生養殖と藻場の再生

――ありがとうございます。現在御社では「洋野うに牧場の四年うに」および「はぐくむうに®」を主力商品として取り扱っておられます。この再生養殖したウニの品質は、天然物・通常の養殖をしたものと比べて、品質の面ではどのような差があるのでしょうか? プロの目線からお教えください。

地元だからということもあるのですが、天然物のウニはやはり最高だなと感じます。ただそう思う一方で、「はぐくむうに®」を育て始めて7年(※研究開発期間含む)、年々おいしくなっていっているという実感があります。現在の「はぐくむうに®」は、天然物とかわらない甘味があります。
また、はぐくむうに®︎の何よりの強みは、「需要期に出荷できる」という点にあります。
ウニの需要は12月末に高くなりますが、その時期に出荷するために、私たちが北海道大学水産科学研究院と共同開発した、餌と籠を使用し、2か月間でエサやりをしてしっかり育てます。
ちなみに、天然物のウニは、夏が旬の時期なのです。寒い時期は水温が低くなりすぎて、ウニがあまりエサを食べなくなるシーズンであるため、冬に獲れるウニは実入りが良くないという欠点があります。つまり冬は、漁師さんが寒い中漁獲したり、海外から輸入されたウニが市場に出回る時期」に当たるわけです。
はぐくむうに®の場合は、管理してウニを育てるので、「冬でもおいしいウニ」を作ることができます。

――ありがとうございます。ウニの養殖については、「その養殖技術がまだ確立され切っていないのではないか」「持続可能性はあるのか」などが議題に挙げられることがありますが、どのようにお考えでしょうか?

ウニの養殖に関しては、漁場の状況やその年の水温状況にもよる為、私たちも試行錯誤しながら行っています。現在の形式では、「海の中にカゴを沈めて、海面を使って養殖する」というやり方でした。この方法の場合はコストが安く済む一方、海水温の上昇などの自然環境の変化に弱かったというデメリットもありました。
私たちはこの「海面を使って育ててきた知見と技術」を活かしながら、「陸上でのウニの養殖」に着手していこうと考えました。

ウニの養殖の持続可能性は、非常にチャレンジングな課題です。
海中にありすぎるウニを獲ってきて、そのウニを陸上の水槽の中で育ててというようにすることで、海を守ることができます。この「陸上でのウニの養殖」が進めば進むほど、ウニによる磯焼けがなくなり、海の中の海藻も育ちやすくなるのではないかと思っています。
一方で、持続可能性を考えるときには、「ビジネスにすること」の視点も非常に重要だと考えています。そのなかで私たちが特に着目しているのが「販路の拡大」です。どれだけ多くのウニを作ったとしても、売り場がなければ、育てたウニはお客様に届きません。そこで私たちは、ウニの美味しさと魅力を世界中に広めようと、欧州に輸出が可能となる認証である、「EU HACCP」を取得しました。日本では豊洲市場でもよほどブランディングされているウニでなければ、「安くて、そこそこおいしいものを」という商品が選ばれてしまいます。もちろん日本でも、私たちの作り出すウニの理念に共感してくださる方はいて、そのような方にお届けしていくとともに、美食の町と言われるヨーロッパ各国で、日本産のウニの美味しさをしっかりお届けし、それを皮切りに世界中に日本産のウニが広まって行くようなストーリーを描いています。

やはりコストの面では課題があります。しかしこれも多くの企業と連携していくことである程度フォローができると考えています特にエネルギーコストがかかるため、エネルギー関連の会社様などとの連携も必須と感じています。
「生産だけをしていればよい、そのためにはCO2をたくさん排出してもよい」という考えは、あってはならないと思います。最初から100パーセントを実現することはできなくても、いろいろな関係性を築いていくなかで、環境保護の面からも世界の海を豊かにしていければと考えています。


ウニから海を考える

――なるほど。ちょっとその藻場の再生に関してもう少し伺いたいのですが、ウニの漁獲量をちょっと調べてみたところ、農林水産省の調べでは1969年の約2万7000tが大体ピークなのですね。 そこから減っていって2021年の時点で約6600t、これについては温暖化もおそらくあると思うのですが、高齢化などで漁師さんが減ったとかそういう原因もあって取れなくなったから、結果として藻場が荒れたっていうことはありませんでしょうか?

あります。藻場の砂漠化の原因は複数ありますし、それらが複合的に絡み合っての結果なので、「これだけが原因である」「これをしたらすぐに問題が解決できる」ということは日本では明確になっていません。
弊社グループでは、オーストラリアタスマニア島でも工場を持ってビジネスを行っています。オーストラリアの場合は、州政府が「海を守るぞ」と決めて、それを漁師さんに落とし込んでいます。オーストラリアには「ジャイアントヘルプの森」と呼ばれる大型改装の群落がありますが、これも30年前に比べて95パーセント減少しています。それに対して、大学なども連携して、「どのような原因か」「解決策は何か」をデータに基づいて分析して、状況改善に取り組んでいます。それがオーストラリアのすばらしさであり、私たちはそれを学び得ながら、日本でも藻場再生を行っていきたいと考えています。

――ありがとうございます。こちらと関連して、現在一次産業に関わる人が少なくなっているといわれていますが、御社で取り組まれていることをお教えください。

1か月ほど前に、小学校6年生を対象として講演を行いました。小学生も「この町がウニの産地であること」は分かっているのですが、「なぜ産地たり得ているのか」などは深く知らない子が多く、情報や希望や魅力もしっかり伝わり切れていない印象を受けました。海洋教育や、伝えることを積極的に行うことで少しでも海とその魅力を身近に感じられるような流れを作っていきたいと思っています。海を身近に感じる人を増やすには、より様々な角度で関わりしろがあるビジネスの仕組みを構築することが、この「流れの改善」にも役立つと思っています。
たとえば、陸上養殖のウニを自分の手ですくう体験イベントを開催したり、イチゴ狩りやブドウ狩りなどのような「ウニ狩り」を行ってレジャー化したりすることも考えています。このようなかたちで行う清算業との関わりは、子どもだけではなく、大人にとっても学びの機会となるかと思います。

――そういえば、洋野町はウニ以外にもホヤが有名だとか……。ホヤに関しては震災以降どうなったかあまりお話が出てきませんが、これについてお教えいただけますか。

ホヤは、年々獲れなくなっているとは聞きますね。やはり海洋環境の問題や、その影響から時化が多くなったりといったことが根にあるのかなと思っています。
洋野町では、ほかの三陸地域とは異なり、ヘルメット式潜水の南部ダイバーが
、水深20~30メートルまで潜り、手で摘むようにしてホヤを獲っています。水深20~30メートルまで潜って作業することは特殊な技術ですから、どうしても獲る人手が足りないという問題があります。また、ホヤに限った話ではないのですが、あのあたりはシケが多くて、潜れない時期もあります。そのようにしてタイミングを逃すと、どうしても漁獲量が減ってしまうという問題もあります。

――そありがとうございました。今後の商品展開や抱負、を教えてください。

伝統や歴史を大切にしながらも、「豊かな海の創造」に向かって、いかに社会的インパクトを出せるかを大切にしています。
その為に重要なことは、「共創」です。漁協・漁業者さん、行政といった従来のステークホルダーはもちろんのこと、様々な地域・業界とタッグを組み、様々な角度から海の課題解決と魅力づくりに取り組んで行きたいと考えています。
また、ウニの可能性を今まで以上に引き出すために、うにソースやパスタソースなどの新たな商品づくりにも力を入れていきます。

私たちの根っこは、「東北」にあります。また、水産業は狭い業界でもあります。しかしそのなかにおいても、「閉ざさない会社」「閉ざさない業界」「世界中と繋がれる世界」でありたいと考えています。世界の海は繋がっていますから、業界を世界を閉ざすことなく、さまざまな立場・考えの人たちと提携していきたいと考えています。私たちがハブとなり、海を豊かにしていけたらと思っています。

現在はデジタル社会だと言われていますが、海に代表される自然に近づくと、人間性を取り戻せたり、心が豊かになったりします。海は癒し効果があるもので、その海とウニをハブにして、いろいろな人に「一緒に関わっていきましょう」と伝えたいですね。