
3社体制で作り上げたICTブイは、今では100基以上設置されている
2008年創業。システム、ソフトウエアの開発やコンサルティングを行う。東日本大震災後、ITで被災地を支援しようと水産ICTの分野に参入。「マリンIT」を研究していた大学教授から海洋観測ブイの提供を受け、海洋データ閲覧アプリ「ウミミル」を開発。NTTドコモ、海洋機器メーカーと3社共同で実用化を進め、2023年までに全国の海にICTブイ100基以上を導入。その挑戦と成果が評価されて受託業務も増え、異業種連携プロジェクトからも引き合いがある。
被災した地域の水産業を支援し、新たなビジネスモデルを
会社設立直後にリーマン・ショックが直撃したアンデックス株式会社。事業計画が崩れ、大変な時期をやっとしのいだところに、東日本大震災が追い打ちをかけた。代表取締役の三嶋順氏は事務所を片付けながら、これからどうするかを考えていた。
アンデックス株式会社 代表取締役の三嶋順氏
自分たちが被災した地域にできることは何か。思考を巡らせ、視察も行いたどり着いた答えの一つが、水産業の情報通信技術であるICTの開発により、地域の水産業者の作業効率化を図ることだった。
「津波で壊滅的な被害を受けた宮城県、岩手県、福島県の水産業に何かお手伝いできないか、というのがそもそものスタートです。そして、被災地から新しいビジネスモデルが全国に発信できたらと」(三嶋氏)。
システム、ソフトウエアの設計、開発、およびコンサルティングといった基幹事業を再開する傍ら、宮城県の後押しも受け、水産ICTというアイデアを形にするためリサーチを行った。
その中で、すでに水産業とICTを融合した新しい漁業「マリンIT」を研究していた公立はこだて未来大学の和田雅昭教授の存在を知り、アプローチ。水産ICTで海水温を遠隔確認すれば、作業を効率化できると教えてもらい、海洋観測ブイである「ユビキタスブイ」の提供を受ける。和田教授からは、宮城のカキやノリの生産者に使ってもらってみてはどうだろうかとアドバイスを受けた。
さらに、生産者へのリサーチで、海水温や塩分が非常に大事な要素だと知る。生産者はこれまで、毎日養殖場へ船を出してこれらの情報を観測していたため、時間がかかり効率も悪かった。
3社協業で水産ICT事業を実用化 全国の海に100基導入
アナログで観測していたデータを海上に設置したユビキタスブイで測定してクラウドに送信し、それを活用することで作業の高効率化、安定化を図ろうと、2014年に実証実験を始める。すでにセンサー情報を遠隔確認する仕組みを確立していた和田教授から、そのシステムも提供してもらった。そうして開発したスマホアプリ「ブイログ」を仙台湾で使用。まずは海水温をクラウドサーバーで24時間365日観測できる環境を構築した。
スマートフォンで養殖場の海水温をいつでもどこでも確認でき、測定のために船を出す燃料代も時間も削減できる。当然、生産者からの反応は良かったが、それを実用化しビジネスに展開していく上では、独自のハードウエア開発など乗り越えるべきさまざまな問題が残っていた。
実用化するためには、ハードウエアの開発や販促が必要不可欠だった。そんな折、株式会社NTTドコモがアンデックスの取り組みに興味を持ち、協働で事業を行うことが決まる。そこに、灯台など航路標識機器を手掛けるセナーアンドバーンズ株式会社が加わり、2016年には3社体制ができあがった。
ソフトウエアやサーバーの開発・構築、保守・運営をアンデックス、ハードウエア(ICTブイ)の開発・メンテナンスをセナーアンドバーンズ、販促や導入支援をNTTドコモが行う。
海水温を観測するスマホアプリの「ブイログ」から、掲示板や作業日誌機能を追加したアプリ「ウミミル」を開発。漁師からの要望で海水温だけでなく、塩分も遠隔で確認できるようになり、2017年にリリースした。生産者が操作するアプリのインターフェースの開発においては、「漁師さんのごつごつとした大きな手で操作することをイメージし、説明書を読まなくても分かるようにデザインしました」とITエンジニアリング本部部長の鈴木宏輔氏は話す。
アプリ「ウミミル」の操作画面
ハードウエアでは水深など各地の海の環境に合わせてブイの形状を変え、複数タイプを展開した。そうやって3社共同で制作されたブイは北海道から沖縄まで各地の海で、テスト導入と本導入合わせて100基以上浮かんでいる。
未知の領域への挑戦が旗印となり、採用や事業にも波及効果
導入が広がり、研究開発への投資を回収する段階に入ったが、「これで十分もうかるところまではきていません」と三嶋氏は包み隠さず話す。しかし、会社にはそれ以上に大きな意味がある。
「リーマン・ショックと東日本大震災に翻弄(ほんろう)されたベンチャー企業が、未知の領域に足を踏み込み、こういうビジネスモデルをつくった。そして、NTTドコモという国内最大手の企業と対等なパートナーとなって、被災地に貢献し、全国の海にその新しいビジネスモデルを普及させている。これは会社の大きな旗印になっています」(三嶋氏)
水産ICT分野における東北の先行企業だと認知され、社会貢献できる会社として採用活動の場での存在感も大きくなった。また、水産に限らず、酒蔵へのICT導入による蔵内の情報の遠隔操作といった、異分野とICTを組み合わせたプロジェクトにも声がかかるようになった。それらのベースにあるアプリ開発やシステム開発、サーバー運用の技術力に対する信頼から、受託業務も順調に伸び、「副産物として会社全体で利益が上がっています」と三嶋氏。
酒蔵でのICT活用の様子
「アンデックスは地域のIT企業として地域とお客さまに貢献し、それによって社員とその家族の最大幸福を実現することを経営理念にしています。なぜ異分野に手を出すのか、もうからないことをやるのかと言われることもありますが、そもそも地域貢献をうたっているんです」と三嶋氏。
海洋環境の変化や、資源や働き手の不足など、水産業を取り巻く課題は多く、その解決にICTが必ず必要とされる。創業から一貫してぶれない信念で、その時に備える。
アンデックス 株式会社[宮城県仙台市]
https://and-ex.co.jp/