第4弾 宮古市の子どもの居場所づくりを通して将来を担う若者を育む(NPO法人 みやっこベース)

みやっこハウスに集う子どもたち


 2013年2月に設立したNPO法人みやっこベースは、地域の子どもたちの遊び場や居場所づくりをはじめ、学習支援、高校生ボランティア活動のサポートなどを行う。2014年にはコミュニティースペース「みやっこハウス」を開設。そこで高校生らが議論を行う「高校生サミット」では、10件以上のアイデアが実現した。他にも将来の地元での働き方を体験する「地元修学旅行」や、小学生が社会の仕組みを学べる体験プログラム「みやっこタウン」なども展開。


震災を機に、宮古の将来を担う子どもたちの居場所づくりを担う

 NPO法人みやっこベース理事長の早川輝氏は福岡県出身で、元々東北とはゆかりがなかったが、東日本大震災をきっかけに「自分に何かできることはないか」と思い、ボランティアとして岩手県宮古市に出向いた。当初は2カ月程度の滞在を予定するも、地域の人々との関わりやボランティア活動を行う中で、遊び場や居場所づくり、学習支援など、地域の将来を担う子ども・若者への支援が重要だと感じ、宮古に残って活動を継続することを決めたという。


理事長の早川輝氏


 宮古市では被災直後から、地元の中高生が泥かきなどのボランティアに積極的に取り組んでいた。早川氏が宮古に入った2011年6月ごろには学校も再開していたが、宮古商業高校のボランティアサークルが活動を継続し、子どもたちの遊び場づくりを一生懸命に行っていたのが印象に残っているという。

 「こういう若者が将来の宮古を担っていけば、産業の担い手不足や経済低迷など、復興後に待ち受けるさまざまな課題も解決へと導き、持続可能な町の未来につながるのでは」と希望を感じたという早川氏。そこでボランティアに参加するきっかけを高校生たちに提供することで、すでに参加している高校生の仲間を増やすため、2013年2月にみやっこベースを立ち上げた。

 以前より、仮設住宅で暮らす子どもたち向けの居場所づくりが求められていた。体を思い切り動かしてストレスを発散できる遊び場や、集中して勉強したり同年代と交流したりするスペースなどだ。そうした居場所づくりのコーディネートをボランティアセンター運営の一環で行っていた。


若者主体の活動や体験プログラムで地域への愛着醸成

 ボランティア支援の他に、若者の主体性を育むため、さまざまな企画を立ち上げた。ボランティアとして参加する高校生たちが意見を交わす場として、2013年2月よりワークショップ形式の「高校生サミット」を企画。2014年4月にコミュニティースペース「みやっこハウス」を開設してからは、そこが活動の拠点となった。高校生らは、ボランティア活動や目の前の復興にとどまらず、広い視野で町づくりや地域活性化について考えていた。


高校生サミットの様子


 「彼らの意見をアイデアだけで終わらせるのはもったいない」と感じた早川氏は、地域の人たちにプレゼンする機会を設けた。グランプリに選ばれた企画は、地域を巻き込みながら自分たちの手で実現させる仕組みを構築。
高校生サミットは毎月みやっこハウスで実施され、2018年度までに48回開催し、延べ800人以上が参加した。そこで生まれた高校生主体の活動は、商店街を高校生目線で紹介する「商店街のマップ作り」をはじめ10件以上に上る。

 また宮古の高校生が卒業後、そのまま地域で働く、もしくは進学・就職で一度は県外に出ても戻ってくるきっかけを作るため、2015年より「地元修学旅行」を開始。進学やキャリアを考え始める高校生や大学生を対象に、宮古市での仕事や自然に触れる機会を提供し、地域での進路選択を考えるきっかけとなっている。
2016年からは、小学生を対象にした「みやっこタウン」を開催。架空の町「みやっこタウン」で、「仕事」「大学」「地域活動」「消費(遊び、買い物)」の体験を通して社会の仕組みを学ぶ取り組みだ。

 これらの活動を実現するためには、地域間の連携が欠かせない。「例えば地元修学旅行で地元の水産加工会社にご協力いただいた際は、加工工場の見学をしただけでなく、経営者の水産業の未来にかける熱い思いを伺いました。参加者からは『宮古で働く人がかっこよかった』などの意見が多く挙がりました」と早川氏。こうした企画は、早川氏がボランティア活動から団体の立ち上げ、みやっこベースでの活動の中で築いてきた関係性と信頼があったことで実現できたといえる。


活動を通じて地域への愛着が増進。幸せの連鎖生む

 みやっこベース設立から10年がたち、活動の成果が徐々に出始めている。みやっこタウンに参加していた子どもたちが高校生になり、今度はボランティアとして活動に参加するケースも表れた。また高校卒業後にみやっこベースのスタッフになったり、Uターンして地域活性化に携わったりする事例もある。

 一方で、早川氏の考え方も少しずつ変化している。「多くの若者と触れ合う中で、『宮古市に残ってもらうことや、戻ってきてもらうことが目的になってはいけない』と自分に問い直しました。たとえ離れた場所にいても、宮古市で生まれ育った子どもたちに幸せな人生を歩んでもらうことが一番です。自分で自分の人生を良いものにできるという感覚を育んでもらいたいですね」(早川氏)

 今後も活動を続ける上で、避けられない課題が資金調達だ。そこで地域住民や宮古出身の人、地元企業や地元出身者が営む県内外の企業から寄付を募っている。2021年には、少額でも集まれば大きな支えになるといった考えから、月500円から支援できるマンスリーサポーター制度を設けた。

 「自分の子どもの幸せを考えたら、周りの子どもやその親御さん、子どもを育む地域も幸せにならないと実現しないと思うんです。最近は、日本全体で他の人を気にかける余裕が減ってきているとも感じています。そのため、皆さまから応援の気持ちを集めて、子どもたちや地域に還元できたらと考えています」(早川氏)




NPO法人 みやっこベース[岩手県宮古市]
https://miyakkobase.org/