
一つひとつの作業を丁寧にこなす従業員たち
リフォーム会社の一部門が独立する形で、2011年9月に設立。就労支援事業所として障害者を雇用し、個々の特性を生かし、ポーチやバッグなどの裂き織り製品の製造を手がける。さんさ踊りの衣装を再利用したカラフルな裂き織りが特徴で、小物雑貨などで若者世代にも認知を広げている。SDGsの観点から業界問わず企業からの関心も高く、国内の大手ブランドとコラボレーションを続々と展開。障害者に対する偏見や差別をなくすこともミッションに掲げ、取り組みを進めている。
被災後すぐ会社に駆け付けたスタッフの思いを受け独立
岩手県盛岡市の住宅リフォーム会社に勤め、高齢者や障害者が暮らしやすいバリアフリーの住環境を提案していた石頭悦氏。仕事の視察で特別支援学校の見学に訪れた際、生徒たちが集中して規則的な動作を繰り返し、裂き織りを織り上げている姿と、その裂き織りの美しさに「目からうろこが何枚も落ちました」と振り返る。
株式会社幸呼来Japan 代表取締役の石頭悦氏
裂き織りとは縦糸に木綿や絹、麻などの一般的な糸を用い、横糸に使い古した布をひも状に裂いたものを使う織りのこと。東北に起源があるとされ、盛岡をはじめとした岩手県など複数の地域で伝承されている。石頭氏は改めて地元で作られている裂き織りを意識して手に取るようになり、その上で、やはり生徒たちの織りが緻密できれいだと実感したという。
「こんな素晴らしい作品を、いろいろな人に知ってもらえないなんてもったいない」。
石頭氏の裂き織りへの熱い思いを聞いた人から、「事業化したらいいのではないか」と提案された。盛岡市の緊急雇用創出事業を活用し、2010年、リフォーム会社に裂き織り製品の製造部門を立ち上げるも、翌年に東日本大震災が発生する。
発災翌日の3月12日、会社には社長と石頭氏の他に、裂き織り部門で採用していた障害のあるスタッフが駆け付けた。「会社が心配で家にいられなかったと話していて、仕事に対する思いを強く感じました」。
一方、東日本大震災の影響でリフォーム会社は経営が一時不安定となり、裂き織り事業部の閉鎖が決まるが、「駆け付けてくれたスタッフのことを思うと、その思いを無駄にはできない」と、石頭氏は事業を継承する形で独立を申し出た。
さんさ踊りの鮮やかな衣装を裂き織りにして若い世代にも普及
2011年9月、株式会社幸呼来(さっこら)Japanを設立。石頭氏の他に社員1人と、裂き織りの製造担当で、精神、知的などの障害のあるパートタイムのスタッフ2人で、取り壊し寸前だった物件で旗揚げした。
「さっこら」は「盛岡さんさ踊り」のかけ声「サッコラー、チョイワヤッセ」に由来する言葉で、「“幸”せは“呼”ぶとやって“来”る」という意味がある。社名にするほど石頭氏が根っからのさんさ踊り好きだっただけでなく、同社とさんさ踊りには重要な関係性がある。
当初から裂き織りの品質に自信は持っていたが、他社製品と差別化し、若い世代にも興味を持ってもらうには工夫が必要だと考えていた。そんな時、さんさ踊りの踊り手らのカラフルな浴衣を見て石頭氏は「この浴衣を、裂き織りの横糸として再利用しよう」とひらめく。そして、さんさ踊りで使い古した浴衣を譲り受け、その鮮やかな色彩で若者の目を引く裂き織り製品を作ることにしたのだ。
盛岡さんさ踊り実行委員会を頼ると、「古い浴衣の再利用ができる、すごくいいことだから協力しますよと言っていただけました」と石頭氏は語る。あの鮮やかな浴衣が、障害のあるスタッフの正確で緻密な作業を通して、ポーチや名刺入れといった唯一無二の美しい裂き織り製品に生まれ変わった。
さんさ踊りの浴衣を再利用した名刺入れとカードケース
その製品が評価され始めたきっかけは、大手通信販売会社との取引。2012年2月の東京インターナショナル・ギフト・ショーでその会社が幸呼来Japanの鮮やかな商品に目を留め、声をかけた。これまでのような一点物の納品などとは異なり、大量の製品を安定的に供給する体制が求められた。
しかし、石頭氏は就労継続支援事業所を開く準備を進めており、2012年4月に、雇用契約に基づく就労が可能な障害者の就労支援を行うA型事業所の認可が下りたことで、発注に応えられる体制が整った。2014年には、雇用契約に基づいた就労が困難な障害者の支援も行うためにB型事業所も開設した。
時代背景と製品への評価から大手ブランドと続々コラボ展開
その後もホームページや展示会を通して県外の企業からの引き合いも増え、「オニツカタイガー」「KUON」など、国内の大手ブランドとのコラボレーションを次々に展開。
SDGsの観点からも裂き織りは注目を集めており、中でも大手通販会社との取引もこなすほど、一定の数量を安定的に生産できる幸呼来Japanは希少な存在だ。そしてもちろん、クオリティーの高さも認められている。石頭氏は、「今まで見た裂き織りとは全く別物だと評価していただけています。そう言わせるみんなの力が本当にすごい」と感服する。
織り手だけでなく、それぞれの工程を担当する人に責任を持って、やりがいを感じて働いてもらうために、石頭氏は「私たちは『チーム幸呼来』だよ」と繰り返し伝えている。「どの仕事も一つ一つ大事で、みんなが一生懸命手を抜かないで仕事をするからすてきな商品ができて、お客さんがそれに感動して買ってくださるんだよと話しています」と語る。
幸呼来Japanは裂き織り製品の製造以外の役割として、障害者に対する心のバリアーをなくすことを掲げており、その取り組みの一つとして、障害者スタッフが先生となる子ども向けの裂き織りのワークショップを、2021年に初めて開催した。
「教える側は自分が誰かへレクチャーできたことに自信を持ち、教わる側は先生から丁寧に教えてもらえたと喜んでいました。子どもの頃からそういう機会があれば、自然と見方は変わっていくはずです」。
さんさ踊りのカラフルな浴衣が横糸となって裂き織りを彩るように、障害のある人もない人も、それぞれの個性が織り込まれてこそ彩り豊かな共生社会が実現する。
株式会社 幸呼来Japan[岩手県盛岡市]
https://saccora-japan.com/