ふたばいんふぉの内観／双葉8町村ごとの展示と中央には大型立体地図が配置
福島第一原発事故により、双葉郡８町村の多くの住人は身一つで避難を余儀なくされた。いつ戻れるか、家はどうなっているのか、友人はどこにいるのか、誰もが切実に情報を求めた。平山勉さんは避難直後から情報を発信し、2015年「昔の寄り合いみたいに用がなくても集まろうや」と「双葉郡未来会議」を設立。町や村の境を超えた活動を続ける。「新しい東北」復興・創生の星顕彰受賞の知らせに「うれしいです。同時にもっと頑張らなきゃと気合が入りました」と表情を引き締めた。
避難先から発信と活動を続ける
平山勉さんは富岡町出身で、福島県内の高校を卒業後進学のため上京。東京で音楽レーベルを創業し仕事は順調だったが、2009年、高齢となった父が経営するホテルを引き継ぐためUターンした。しかし、2年足らずで東日本大震災と原発事故が起き富岡町は全町避難。平山さんは40キロほど離れたいわき市の親戚宅へ身を寄せる。4月22日、富岡町がすっぽり入る半径20キロ以内が警戒区域に設定され、立ち入りが禁じられた。
避難直後からインターネットで情報の収集と発信を続けた。帰町のめどが立たない中、住人は転々と避難先を変えたり新しい土地で生活を始めたりして、月日が経つごとに住民が求める情報は変化した。しかし、行政は業務に忙殺されてホームページの情報すらなかなか更新されない。そこで平山さんは2011年秋にウェブサイト「富岡インサイド」を立ち上げ、全国の行政が出す支援情報や町の様子を撮った写真や動画を掲載した。13年には、住民の要望とボランティアをつなぐ「相双(＊)ボランティア」の活動も始めた。
そんな中で2013年、双葉郡から数千人もの避難者を受け入れたいわき市で、市民か避難者かといった立場を超えて対話をする場として「いわき未来会議」が発足し、平山さんも加わった。活動の中で双葉郡に特化した取組をしようと有志を集め、2015年7月に「双葉郡未来会議」を設立した。
＊「相双(そうそう)」は福島県相馬地域と双葉地域を合わせたエリアを指す。
離れていても“お隣さん”
「双葉郡未来会議の思いは『寄り合い』だ」と平山さんが話す。双葉郡は８町村からなり、そのうち大熊町と双葉町には福島第一原発（通称「イチエフ」）が、楢葉町と富岡町に同第二原発（「ニエフ」）が立地する。「行政にはそれぞれ立場や思惑があるかもしれないが、住民は離れて避難していても元々は“お隣さん”なんですよ。だったら境界を超えて一緒にやろうよ、っていう思いで集まりました」。声かけに即時に応えたのは８町村から10人。昔ながらの地域の寄り合いのように「特に議題がなくても頻繁に顔を合わせて互いを分かり合う場」があれば、自然にアイデアが生まれたり、誰かが困ったときに力を合わせて手助けしたりできる。メンバーは定例会を開いてそれぞれ町村の現状を報告しあい、現地を見学し、一般向けのシンポジウムを開催したりした。
2017年４月、富岡町で帰還困難区域を除く避難指示が解除された。平山さんはホテルの営業を再開し、傷んだ自宅の修繕を待って同年９月に帰町。18年、双葉郡未来会議の事務所兼交流スペースとして町内に「ふたばいんふぉ」を開設した。8町村の展示スペースを設けて発信拠点とし、物産販売も行う。団体の活動はホームページやSNS、YouTubeなどで「住民目線」からの発信を続け、毎年復興の様子をまとめた冊子も発行している。
「富岡に戻ることもホテルを再開することも、一度もあきらめなかった」と平山さんは言い切る。「高校卒業するときは『こんな田舎二度と住まねぇ』って出ていったのにね(笑)。故郷が厳しい状況に置かれるのを目の当たりにして『何とかしたい』と強く思うようになりました」。
一般社団法人 双葉郡未来会議 代表理事／平山勉さん
次世代へバトンを渡す
10人で始めた団体だが、現在は双葉郡の住人と支援者、関係人口含めて登録者数が約300人まで増えた。中心的に活動するのは30～40代の若手だ。補助金の申請や他団体との連携をよりスムーズにできるよう、21年一般社団法人化した。同年、スタッフの発案から大学生の企業インターンを実施し、手応えを感じたという。
被災地で生まれた団体が年々姿を消す中、若手を巻き込みながら活動を発展させられるのはなぜだろう。平山さんは「全然終わってないからじゃないかな」と言う。初めは原発事故というあまりにも巨大な壁を前に、無力感に押しつぶされそうだった。一人ずつ仲間を集め自分たちにもできることを探し、少しずつ光を広げてきた11年。長い年月がかかると分かっているから、同じ思いと熱量を持つ仲間が集まり継続できていると感じる。そして今、富岡町のことは少しずつ若手に任せ、平山さんの思いはまだ残る帰還困難区域へ向いている。
「イチエフの廃炉が完了するまで原発事故は終わったと言えない。俺たちが生きている間にゴールはないんだよ」。だからこそ、未来を担う若者のチャレンジを懸命にバックアップする。いつまでも避難者・被災者と言われたくない。公的な補助金や援助から卒業し、自立していこう。「ゼロからといえるまちづくり、やりがいは満載ですよ」と話す表情は明るい。
一般社団法人 双葉郡未来会議[福島県双葉郡富岡町]
https://futabafuture.com/