第11弾 若い女性が震災後の不安を本音で語り合える場所をつくる
(女子の暮らしの研究所 )


 東日本大震災の後、それまでの当たり前だった暮らしが一変した。どうしたらいいのか、明日が見えない中、日塔マキ(にっとう まき)さんは、福島に住む若い女性が「これからの暮らしを考える」ためのコミュニティづくりに向けて「女子の暮らしの研究所」を設立。ラジオ放送やイベント の開催、福島の伝統工芸品をアレンジした雑貨やアクセサリーや企画・販売などを通して、福島の今を発信し続けた。「新しい東北」復興・創生顕 彰の受賞について、日塔さんは「うれしいです。大勢の方々に関わっていただき、取組を続けてこれてよかった」と喜びを語った。


避難先では福島の状況がきちんと伝わっていなかった

 東日本大震災の発生時、日塔さんは福島県郡山市内のスーパーマーケットにいた。突然、けたたましく携帯電話の緊急地震速報が鳴り響く。間 もなく、激しい揺れに襲われた。周りの商品が音を立てて崩れ落ちる。揺れは予想よりも遥かに大きく、しばらく収まらなかった。揺れに足を取 られながら、やっとの思いで避難出口にたどり着くと、外は真っ暗で、吹雪。寒さと地震の恐怖で思わず身をすくめた。

 2011年3月11日に起きた東日本大震災は、東京電力の福島第一原発にも甚大な被害を与えた。3月12日~15日にかけて、津波により損傷し た同原発の1、3、4号機の原子炉建屋が水素爆発。国内の原子力発電所の事故で初めて住民の避難指示が発出される緊急事態となった。事故の 経過とともに住民の避難範囲は、12日夕刻頃、同原発を起点に20km圏内は避難、15日には30km圏内まで屋内退避措置が指示された。

 転職し東京で新たな日常が始まった。しかし、職場などで耳にする福島の情報は自分の知ってる福島とはあまりにもかけ離れたものだった。こ のままではいけない。きちんと福島の声を発信していくために、日塔さんは福島へ戻ることを決意する。


支援から遠ざけられた世代に話し合える場を提供

 2011年11月、日塔さんを含む5人の女性が「peach hear(t ピーチ ハート)」という任意団体を郡山市で立ち上げた。目的は、震災後に不安を抱 える若い女性たちが本音で語り合い、これからの生活について考える場所の提供だ。そうした場が必要だと感じた背景には、支援から遠ざけられた世代の存在があった。

 震災後、様々な支援が行われた中で「19歳以上でまだ母親にはなっていない女性」たちに対する支援がすっぽり抜け落ちていたのだ。18歳以下は甲状腺の検査が無料(震災当時)で行われ、子供を持つ母親には母子避難やメンタルケアなどのサポートがあった。しかし、19歳以上でこれから母親になる世代に対するサポートは不充分だった。



 不安を抱く女性たちを支援するために「peach heart」は何でも話せるコミュニティづくりや放射能の心配がない県外への保養ツアーなどを 企画。また、放射能についてもっと知りたいという声があれば、専門家を訪れ勉強会なども実施。月1回ほどの割合で行った催しへの参加者は延 べ100人以上に達した。その後peach heartのメンバーは各自の道を進み、日塔さんは2012年12月、株式会社GIRLS LIFE LABO(ガールズ ライ フ ラボ)を設立、「女子の暮らしの研究所」の運営を開始する。

女子ならではの感性を活かして福島の復興を応援

 「若い女性がこれからの暮らしについて自分自身で考え、きちんと選択して生きていける社会を作ろうというコンセプトのもと活動を始めま した。『女子の暮らしの研究所』の名前にはそんなの想いが込められています」と日塔さん。高校生や大学生、社会人までのコアメンバー約20名 の女子たちが研究員として在籍し、被災地の現状を伝えるバスツアーや放射能の影響を考えるトークイベントの企画・運営などを行った。

 また、立ち上げ当初から始まった郡山コミュニティ放送のラジオ番組では、恋バナといったガールズトークから政治に関する難しいテーマま でを取り上げ好評を博した。福島の伝統工芸品をアレンジし販売する雑貨やアクセサリーは、“可愛らしい”がキーワード。可愛いと手に取っても らうことで、福島に暮らす女子の現実や不安をより多くの人に知ってもらいたいという願いから生まれた。

 2020年9月には福島県郡山市のうすい百貨店に、また2021年6月には期間限定で東京新宿マルイ本館に、団体名と同じ名称のコンセプトショップを展開し、福島にこだわった商品が話題となった「女子の暮らしの研究所」。これからも女子ならではの視点を活かし、取組をステップアップさせながら、福島にいる若い女性の暮らしに向き合い、復興の一翼として福島の今と魅力を発信していく。




女子の暮らしの研究所 [福島県郡山市]
http://www.girls-life-labo.com/