第10弾 地域型芸術祭で被災地の持続的な復興を支援する(小林武史(一般社団法人 APバンク) )


 日本の音楽シーンの第一線で活躍する小林武史さんが実行委員長となり、2017年に宮城県の石巻市で始まった「Reborn-Art Festival(リボーンアート・フェスティバル)」。従来にない手法のこのイベントは、地元に大きなインパクトを与えた。東北屈指の規模のイベントを継続的に開催することにより、多面的に復興を後押しし続けることが「新しい東北」復興・創生顕彰受賞につながった。この取り組みへの小林さんの思いを、実行委員会事務局長の松村豪太さんに聞いた。


アートと音楽、食の総合芸術祭を開く

 一般社団法人APバンクは、持続可能な社会づくりや環境プロジェクトへの融資を行う団体として、小林武史さんがMr.Childrenの櫻井和寿さん、坂本龍一さんとともに2003年に設立された。東日本大震災の発生直後の2011年には、東日本大震災のために「ap bank Fund for Japan」を立ち上げ、募金活動や災害ボランティアの派遣、復興事業への人材派遣などを行った。

 石巻市では同時期、松村豪太さんを中心に震災後のまちづくりを考える団体「ISHINOMAKI2.0」が結成され、さまざまな活動を行っていた。「単に震災前の状態に戻すのではなく、もっと面白い街をつくる」ことを目指していた松村さんと、「一時的な復旧支援だけでなく、持続的に支援したい」と考えていた小林さんは共感し合い、2013~14年に「世界で一番面白い街をつくろう実行委員会」を共催する。

 石巻市の若者が街の価値や課題を探る連続ワークショップで、最終回に「石巻で芸術祭を開く」という提言を打ち出した。これを実現しようと2015年に実行委員会が組織され、「石巻を舞台にしたアート・音楽・食の総合芸術祭」をコンセプトにReborn-Art Festival (以下、RAF)構想がスタートした。

 開催地は宮城県の牡鹿半島と石巻市街地を選んだ。牡鹿半島は震災で多大なダメージを受けたが、自然と資源が豊かでリアス海岸の地形も美しく、非常に高い可能性を秘めた地域。この場所の価値を丁寧に掘り起こすことに意義があるのではないかと考えたという。


地元住民との交流から構想を練る

 当初から持続可能な形での復興支援を模索していた小林さんは、芸術祭で一時的な経済効果を生み出すことだけを目指していたわけではなかった。地元の人たちにとって、震災前より楽しく魅力的な地域を作るような祭りにしたいと考えていた。そのため自ら牡鹿半島の小さな浜へ何度も足を運び、地元の区長や漁師らの話に耳を傾けた。昔話を目を輝かせて話す地元の人たちと交流しながら、小林さんたちは牡鹿の浜に継続的な賑わいと楽しさを取り戻すことを考え、計画を練った。



 2017年夏、第1回Reborn-Art Festivalを51日間にわたって開催。牡鹿半島と石巻市街地で50組以上のアーティストが主に屋外で作品を展示し、さらに音楽や食も楽しめるイベントで、延べ26万人の来場があった。復興支援イベントといえば有名人やアイドルがパフォーマンスを行いご当地グルメの屋台が出るというスタイルがお決まりの中、RAFは一言でいうと「分かりづらいイベント」だ。タイムテーブルはほとんどなく、会場は点在して移動にも時間がかかる。「しかし、それこそがRAFのアイデンティティ」と松村さんは話す。

 地元の人も知らないビーチや、廃校になった小学校校舎、街なかの使われていなかった建物……それらを活用してアートを展示し、来場者に巡り歩いてもらう。途中で出合う景観や自然の美しさ、地域の文化や価値に触れてもらうことにこそ意義があった。

地元が引き継ぐRAFのバトン

 開催前は、地元住民に言葉で説明してもなかなか伝わらなかったが、始まってみると「腑に落ちた」という声も出てきたという。アートと音楽と食の融合による新しいタイプの地域型芸術祭の経験がなかった住民は、体験して初めてその魅力に触れた。特に交流を深めてきた牡鹿半島の浜の人々は今や絶対的な理解者で、「偉大な応援団として支えてもらっている」と松村さん。

 当初は十分な理解が得にくかった石巻中心部でも徐々に浸透が進み、2018年3月、市民による「RAF石巻実行委員会」が結成された。2019年の第2回では独自の企画を運営するなど、RAFを活用して自分たちが立ち上がっていく動きが生まれている。第3回は2021年夏、22年春の2期にわたる開催だ。全国的に知名度が高まり、コアなファンも増えてきた。これからは地元がRAFで培ったノウハウや人脈を生かしてさまざまな可能性を追求し、会期以外も牡鹿半島を含めた石巻エリアを中心に盛り上げていく。




小林武史(一般社団法人 APバンク) [東京都港区]
https://www.apbank.jp/