第6弾 「防災ツーリズム」で被災地に人の流れを生み出す(日本航空株式会社 地域事業本部支援推進部  東北地域活性化推進室)


 民間の企業でありながら、東北の震災復興に向けた活動を展開してきた日本航空株式会社。国内外に多彩なネットワークを持つ同社ならではの強みを活かし、産・官・学・民との連携のもと取組の主軸にしているのは「防災教育」と「観光」を融合させた「防災ツーリズム」。学び、楽しみ、気付かせる旅で東北へのインバウンド拡大を目指す。「新しい東北」復興・創生顕彰受賞について担当者は、「関係する皆さまと一緒になって地道に活動をしてきたことを評価いただきよかった」と思いを語った。


東北のインバウンド拡大に向け取組をスタート

 震災後の東北の元気を創るお手伝いの拠点として、日本航空株式会社 地域事業本部支援推進部 東北地域活性化推進室(旧:東北創生室)が仙台に設置されたのは、2016年9月のこと。①東北の観光振興、②東北の地域物産の発掘と販路拡大、③東北の未来を担う人材育成を大きな柱に地域創生の取組はスタートした。

 訪日外国人の東北への誘客については、震災以降同社は訪日旅行者向けの国内線割引運賃「JAL Japan Explorer Pass」の導入をはじめ、日本政府観光局(JNTO)と連携し、海外の旅行会社を東北に招いて商品を企画、販売するなど東北への人流創出を目指す取組を行ってきた。

 観光振興の課題は、震災後の風評被害等で落ち込んでいる東北への観光客をいかに活性、拡大させるかであった。そんな中、政府は「観光ビジョン実現プログラム2017」において、防災学習を含めた教育旅行の促進を提唱する。同社は、この動きを受けて「防災教育」をキーワードに東北誘客の取組をさらに発展させる「防災ツーリズム」を打ち出し、インバウンド拡大を取組の主軸とした。

 「防災ツーリズム」とは、東北の自然、温泉、文化、食といった豊かな観光資源を楽しむ旅行に震災遺構訪問などの防災教育の要素を融合した東北ならではの新しい旅のスタイル。その魅力を活かして交流人口拡大と交流機会の創出を図るというもの。2016年~2017年当時は、訪日する外国人は増加傾向にあったが、東京、富士山、京都、大阪といった「ゴールデンルート」と呼ばれる地域に集中しており、その訪日外国人を東北へ誘客するのが狙いだった。


防災研究で世界トップレベルの東北大学と連携

 「観光」と「防災教育」を融合した東北ならではの新しい旅のコンテンツ開発のために、同社は防災教育の研究実績で世界トップレベルの東北大学と連携。2017年10月に災害科学国際研究所の協力・主導で、自治体、旅行会社、民間企業など13団体からなる会議体も開かれ、この会議のメンバーを軸に防災教育コンテンツ(震災遺構施設、語り部等)の事業者などとも協力関係が広がり、防災ツーリズムの展開拡大を徐々に図っていった。また、同社は2017年、2019年に仙台で開催された「世界防災フォーラム」に協賛し「防災ツーリズム」の発信、啓蒙などへの協力も行った。



「教育旅行」をキーワードに継続的な取組を目指す

 同社では、この取組で交流人口が拡大され地域が活性化することで、継続的な経済効果と雇用の創出が図られることを目標に掲げている。防災ツーリズムの重要なコンテンツである語り部などは個人ボランティアなども多い。防災ツーリズムの需要拡大や事業性が見込めないと継続が厳しいという課題があるのも現実である。また、現状ではコロナの感染拡大により訪日外国人が日本に来ていない状況にある。

 そのなか、国内の教育旅行では、「探求」や「SDGs」という学習テーマに東北の震災が選ばれる傾向がでており東北への教育旅行は増加している。教育旅行は団体が多く、増やすことでコンテンツに関わる仕事の需要と収益の増加も見込める。課題解決の糸口になりそうだが模索は続く。

 「これまで積み上げてきた防災ツーリズムを継続するためにも、今後は教育旅行に携わる関係先との連携拡大が必要」と担当部長の平塚さんはいう。

 コロナ禍の厳しい環境下にはあるが、被災地には復興祈念公園や心の復興を担う施設など、防災ツーリズムにおいて立寄る防災教育コンテンツは確実に増えている。さらに、南三陸沿岸道路の全線開通も移動面で防災ツーリズムの追い風になる。平塚さんは「東北をもっと元気にしたい。大震災から学んでほしい。そんな同じ志を持つ多くの方々と連携をして、私たちはこれからも東北ならではの新たな価値を見出しながら地域再生を後押ししていきます」そう付け加えた。




日本航空株式会社 地域事業本部支援推進部  東北地域活性化推進室[宮城県仙台市]
https://www.jal.co.jp