第5弾 農業で人を元気に!障がいがあってもなくても一緒に働く場を作る(一般社団法人イシノマキ・ファーム)


 石巻・北上地区で、震災後荒れていた農地が緑鮮やかなホップ畑に生まれ変わった。一般社団法人イシノマキ・ファームは、障がいや心身の不調の有無にかかわらず、さまざまな人が一緒に働く「ソーシャルファーム」の仕組みで、社会的に弱い立場の人たちの雇用を生み出そうと奮闘する。「新しい東北」復興・創生顕彰の受賞にあたり、代表の高橋由佳さんは「スタッフ一同感激している。被災3県の木材が使われたプレートがとても気に入りました」と喜ぶ。


障がい者や不登校等の若者支援

 高橋由佳さんは、2004年頃から宮城県障害者職業センターでジョブコーチとして働いた。障がい者が企業で働き続けるためのサポートをする仕事だ。あるとき精神障がい者の「みんなと同じように働きたい」という一言にハッとさせられたという。障がい者が必要とされて働き、生き生きと暮らせる社会にしたいと考え、2011年3月にNPO法人Switch(スイッチ)を仙台で設立、障がいを持つ若者の就労支援をスタートさせた。

 一方、震災後、被災地の不登校の増加が問題になった。宮城県の不登校出現率が全国ワーストを記録、最も状況が悪いのは石巻市だった。高橋さんは若者がつらい思いを抱えている現状をなんとかしようと、2013年、法人の事業として「ユースサポートカレッジ石巻NOTE」を設立。高校生から10代、20代の若者を対象に個別相談、就学・就労等のサポートを始めた。


農で人々がリカバリーしていく

 石巻NOTEでは就労や就学を目指す多様なプログラムを実施し、発達障がいや引きこもりを含む若者が通ってきた。あるとき、活動を知った知人から「うちの農地で農作業してみないか」と声を掛けられ、利用者を連れ出した。すると農園では誰もが、驚くほど表情が明るくなり、笑い声が飛び交った。仮設住宅の高齢者も誘うと慣れた手つきで鍬をふるい、ごく自然な態度で初心者の若者にあれこれと教えてくれた。取り組みを続けると利用者と仮設住人、みんなが農業で元気になっていった。「農には人をリカバリーする力がある」。高橋さんは確信した。

 「みんなと同じように働きたい」という精神障がい者の願いも、農業なら叶えられるのではと考えた。そこで2016年、石巻市北上地区に一般社団法人イシノマキ・ファームを設立し、「中間的就労」の制度に沿って農業に特化した就労支援をスタート。週に1~2回、心身の不調などを抱える若者が農業に従事し日当を得る仕組みを作った。農地は、被災後使われなくなった土地を借りた。

 地域内の交流を深めるにつれ、地元の高齢者らが自然に畑仕事を教えてくれるようになった。古民家をリノベーションし、宿泊施設として一般の就農希望者も受け入れた。こうして高橋さんは、障がいや心身の不調の有無にかかわらずさまざまな人が共に働く「ソーシャルファーム」を作っていった。




 主な作物はホップだ。苦みや香りのもととなるビールの主原料で、将来醸造まで手掛けられれば収益を見込めると考えた。高さ5mにもなるグリーンカーテンは被災地の風景を明るく彩るし、手摘みの楽しさは観光客を呼び込める。福祉制度を活用せず自立して運営するために、どうにか収益事業を確立しようと奮闘した。


事業化進め雇用の実現へ

 ホップ栽培は、スタッフのアイデアと機動力でさまざまな関連事業を生み出している。収穫したホップは岩手県の会社に醸造を委託し、2017年「巻風エール」として売り出した。京都や仙台の醸造所からもホップの引き合いがあり、好調だ。2020年にはカフェをオープン、アイスクリームなどの6次化商品も開発した。2022年には石巻で自社醸造を開始する計画で、さらに夢は広がる。収益を増やし、利用者を日当ではなく、正式に雇用することが目下最大の目標だ。

 法人では他に、2018年から石巻市の委託で「石巻市農業担い手センター」を運営し、就農希望者のサポートを行う。これまでに16人の就農を実現させ、現在も2人の研修生がいる。

 石巻を元気に、若者が住みたい街にするには、魅力的な雇用の創出が不可欠だ。これからは団体同士の横のつながりや協働ももっと必要だろう。高橋さんは、「新しい東北の顕彰を受けてスタッフたちもよりやる気を出している。頑張ります」と話した。




一般社団法人イシノマキ・ファーム[宮城県石巻市]
https://www.ishinomaki-farm.com