第2弾 被災妊産婦のケアから被災地に限らない「産前産後ケア」へ(特定非営利活動法人 まんまるママいわて)


 震災時、緊急的に被災妊産婦受け入れ事業を立ち上げた発起人の一人、助産師の佐藤美代子さん。目の前の「お母さん」たちに寄り添い、走り続けた。現在は花巻市などに「産前産後ケア」を行う拠点を運営する。4人で立ち上げたグループは任意団体から特定非営利活動法人に成長し、活動場所や拠点数を増やしながら、まだその先を見据えて邁進している。「新しい東北」復興・創生顕彰の受賞について、「被災地限定ではない、内陸部での活動を含め、活動全体に光を当てていただき光栄です」と喜んだ。


被災した妊産婦と家族を温泉施設で受け入れる

 閑静な住宅地の一軒家に「産前産後ケアハウス まんまるぽっと」の札がかかる。16時、ちょうど利用者が帰る時間で、すやすや眠る赤ちゃんを抱いたり、力いっぱい泣く赤ちゃんをあやしたりしながら、お母さんたちはスタッフと笑顔で会話を交わしていた。代表の佐藤美代子さんはその様子を見ながら、「お母さんたちは頑張っている。誰かが少しでも寄り添うことがすごく大事なんです」と話す。

 始まりは震災時、被災地の妊婦が内陸へ運ばれて分娩した後、避難所へ行くしかないという実情を知ったことだった。母体にも赤ちゃんにも、その状態が良いはずがなかった。地元の団体「花巻市民活動ネットワーク協議会」の会議で支援の必要性を訴えると、協議会は即座に動いた。温泉宿泊施設を活用して被災妊産婦とその家族を受け入れる事業が2011年4月にスタート。佐藤さんも毎日通って産後の不安に寄り添い、これが現在の活動の原点となる。


団体設立、助成金獲得、さらに自治体の業務委託を受ける

 被災妊産婦受け入れ事業は、7組の家族を対象に2011年8月まで行われた。事業が終われば、幼子を抱えたお母さんたちは被災した地元や、避難先、仮設住宅へ戻っていく。「ここで手を離すべきではない」と考えた佐藤さんは、仲間4人で任意団体「いわて助産師による復興支援まんまる(以下、まんまる)」を結成し支援を続けた。支援物資やお茶菓子、食べ物をいっぱい積み込み、岩手県内各地へ車を走らせた。

 最初は7組の母子が戻っていった先でお茶会を開いていたが、個人的に気がかりな母親を訪問したり、うちにも来てほしいといわれたりして訪問先はどんどん増え、2014年頃まで活動を続けた。その頃には、支援金や寄付に頼っていた活動資金が底をつき始め、助成金の申請をする。「でもそんなの、やったことないんですよ。だから組織運営から勉強でした」と振り返る佐藤さん。勉強会で学び、組織の形式を整え、仲間を増やし、同年、見事助成金を獲得した頃には団体の規模もぐっと大きくなっていた。




 活動を続けながら、妊産婦の心身のケアと育児のサポートを行う「産前産後ケア」の必要性を強く感じた佐藤さん。しかもこれは、被災地に限らずすべての母親に必要だ。佐藤さんらは助成金頼みの不安定な活動ではなく、行政の委託を受けようと考えた。

 しかし行政の壁は厚く、直接訴えるだけでは新規事業など通らない。そこで岩手県立大学と協働して母親のニーズ調査を行い、市会議員にも必要性を訴えた。さらには「事例があれば自治体も動いてくれる」と、助成金を使って拠点を設立し運営をスタート。ついに花巻市が「産後ケア事業」に目を向け、2017年4月にまんまるへ事業委託した。


頑張っているお母さんの手を離さない

 折しも産後ケア事業は国の施策で進められるようになり、全国の市区町村も関心を高めていた。現在は、被災地を含む4自治体から委託を受け産後ケア・産前産後サポート事業を行っている。団体も2017年12月、特定非営利活動法人「まんまるママいわて」として法人格を取得した。

 2011年からずっと走り続ける。「止まれなかった、それだけ」と佐藤さんはいう。「私たちが行かなくなれば、あの街のあのお母さんはどうなる? 今手を離せばつぶれてしまう、という人がずっと目の前にいたんです」。

 最初は7組の家族を温泉施設に受け入れた。でもそのとき制度からこぼれ、救えない人がいた悔しさを忘れられない。頑張っているお母さんが、いつポロッと出すか分からない弱音や本音を拾いたい、だからずっと寄り添う必要がある。団体は大きくなったが、目の前のお母さんとつながりを切らない、という思いは変わらない。「宿泊も受け入れたいし、もっと自分を大切に生きていいんだよとすべてのお母さんに伝えたい」。

 顕彰を受賞して「被災地にない団体の活動に目を向けていただけてうれしい」と話す。これを励みの一つにして、佐藤さんの活動はまだまだ広がり、深まっていく。




特定非営利活動法人 まんまるママいわて[岩手県花巻市]
https://manmaru.org