Fw:東北 Fan Meeting 2023 Cheer Up! Project Vol.3 国産オーガニックコットンで始まる新たな地場産業 〜福島県いわき市から挑む和綿の製品づくり イベントレポート
福島県いわき市では、東日本大震災の復興の活動から、国産でオーガニックコットンを作り、地域に新しい産業を生み出そうという試みが続いています。地域では、有機農法で在来種の茶綿を活かした綿花栽培や、そこから体験の場、ものづくりの場、学びの場などが次々と生まれ、綿の生産という新たな挑戦から、様々な可能性を試し続ける環境ができています。
いわき市で立ち上がった株式会社起点では、「福島の記憶に残る生業をつくる」という考えのもと、いわき市を中心に有機栽培した備中茶綿を使用し、オーガニックコットン製品の企画・開発・販売を手掛けています。代表取締役の酒井悠太さんは、国内自給がほとんどないと言われている綿を原料に製品を生み出すことで、収益を生産者へと還元するサイクルを作るためのチャレンジを続けています。
国産で、オーガニックという特徴を活かしながら、その製品化で具体的にどのような価値を地域にもたらすことができるのか。また、そのような価値を生み出すには、どのような製品が求められるのか。酒井さんの取組とこの先の可能性について、専門家を交えてご参加のみなさんと考えました。
プレゼンテーション
挑戦者 酒井 悠太 さん (株式会社起点 代表取締役)

酒井さんは、いわき市出身で市内の工場に就職されました。東日本大震災をきっかけに、地域のために何ができるだろうかと考えたことが今の仕事につながっている、とのことでした。2012年に被災地復興を目指した「ふくしまオーガニックコットンプロジェクト」の事業に従事され、2019年に「株式会社起点」を立ち上げます。
「株式会社起点」は福島で有機栽培した綿花を用いた、ものづくり、販売を行っています。酒井さんは有機栽培について、「環境資源と共生することが一番重要なことだと認識しています。また、働く人たちの農薬による健康被害も世界的に問題になっています。決して他人事ではないと強く感じています」と話してくださいました。
「起点」の製品は全て国内製造です。酒井さんは、「職人さんが受け継いできた技術は自分には、とても格好よく映ります。末永く国内で続いていくと良いなと感じています」とコメントしてくださいました。
「起点」が企画、販売を行っているのがオリジナルブランド「SIOME」です。「不変と違和感」をコンセプトに、作る人と使う人の暮らしが商品を通して交わることができるようにすることを追求している、とのことでした。
オーガニックコットンの手ぬぐい、ハンドタオル、トートバッグ。またカットソーや、開発に2年ほどかけた、綿花栽培や農作業の時に履け、かつ日常にも溶け込めるジーンズも紹介されました。
アドバイザーコメント
須藤 順 さん (高知大学 地域協働学部 准教授)

須藤さんから、「LTV(Life Time Value: 顧客生涯価値)の高い地域ブランド形成」というテーマでお話いただきました。
地域ブランドづくりを想定した際の課題を挙げてくださいました。
(1)資源制約と流通コストに対応できるのか?
(2)激化する競争に挑んで、勝ち続けられるか?
(3)地域のブランド化なのか、地域資源のブランド化なのか?
(4)地域・地域経済に本当に貢献しているのか?
どうすれば、地域ブランドが地域経済を活性化するのか、説明してくださいました。
(1)地域内経済循環率を強化する
(2)地消地産&地産外商
(3)マスに大量に売るのではなく、LTVの高い顧客を獲得する
LTVを高めることとは、ファンづくりの徹底であり、ファンの支持を強化する「共感、愛着、信頼」の3つのアプローチと、目的に合ったコミュニケーションポイントを選択することが重要だということが示唆されました。
トークセッション

ここから、登壇者と参加者、ナビゲーターの原亮(エイチタス株式会社)も交えて、特定のお題にそって意見を述べ合うトークセッションが行われました。
「地域ブランド」について、酒井さんは、「地域文化の土壌を新しく作っていくことの一旦を担いたいというか、ムーブメントが起きていくと良いな、と思っています」とコメント。
須藤さんは、「新しい文化を作るということがポイントだと思いますね。最近、文化起業家という概念が作られ始めています。新しい文化を作ることに対して共感をいかに集めていけるか、仲間との共同の力は大切になると思います」と話してくださいました。
「自分たちのビジョン」について、酒井さんは、「自分たちで作った商品を若い子たちに買ってほしいという気持ちが常にありますし、自分たちの地域でチャレンジしていることも若い子たちに向けて発信していきたいですが、私たちの商品を買い支えていただいているのは年配の方々なので、そこは課題ですね」とコメントしてくださいました。
須藤さんは、「若い人が自分のために高級なものを買うのはハードルがあるかもしれませんが、自分の大切な人が結婚や出産など、人生の大きなタイミングの時に贈り物として届ける仕組みをデザインできると良いかもしれないですね」と話してくださいました。
また、「作る所から若い世代に関わってもらう」という参加者からのコメントから、親子での収穫体験や学生の栽培補助体験が紹介されました。
セッションでは他にも、「コットンを使ったキーホルダーやストラップを作るのはどうか」「地元のスポーツチームに着てもらう」「学校の授業で体験させる」など、活発なアイデア・意見が交わされました。
最後に、今日のミーティングについて酒井さんは、「僕がこの仕事に携わり始めた頃の感じが思い出されるようで、僕にとってもすごくいい時間だったなと思います。着実に一つ一つできることを今後もやっていこうと改めて思うことができました。ありがとうございました」と述べてくださいました。
須藤さんは、「今日、参加された方とのやり取りが重要だと感じます。コーディネーションが得意な団体さんも、いわきを含めて福島の中にはたくさんおられると思いますので、そういう方たちとパートナーシップを組み、色々な人が一緒に関わり合いながら活動していく仕組みができていくと良いなと思います」とコメントしてくださいました。
参考リンク
- • 株式会社起点
会議概要
- 日時:2023年12月7日(木) 19:30-21:30
- 形式:Zoomミーティングによるオンライン会議
- 参加者数:32名
- 主催:復興庁
- 企画運営:エイチタス株式会社