Fw:東北 Fan Meeting 2023 東北暮らし発見塾 テーマ編:子育て 〜移住先で子と親を支える地域コミュニティ イベントレポート
東北への移住をテーマとした「東北暮らし発見塾」のテーマ別開催として「子育て」を取り上げ、移住コーディネーターや有識者を交えてディスカッションを行いました。
家族での移住や、移住先で家庭を築く際に、子どもの居場所や活動機会の有無、子どもを持つ女性をケアする大人たちのネットワークなど、多様なコミュニティの存在は、子どもがいる家庭を持つ移住者にとって、地域に寄せる期待のひとつにもなります。
今回の「東北暮らし発見塾」では、岩手県宮古市と宮城県南三陸町を取り上げ、宮古市からは若年層の成長の機会を地域の場づくりから展開している特定非営利活動法人みやっこベース、南三陸町からは復興庁令和4年度地域づくりハンズオン支援事業の支援も受けながら「南三陸子そだてハッピープロジェクト」を立ち上げた女性支援の団体、特定非営利活動法人ウィメンズアイ、南三陸町移住・定住支援センターから登壇者を迎えて、移住と地域の子育てについて話を伺いました。
また、他地域から秋田県五城目町を拠点とする一般社団法人ドチャベンジャーズから丑田香澄さんを交え、地域で求められる活動についての視点を提供いただきながら、ディスカッションを行いました。
(1) 登壇者自己紹介
早川 輝 氏(特定非営利活動法人 みやっこベース 理事長)

早川さんは2年間のワーキングホリデーから日本に帰国した10日後に東日本大震災を経験しました。ボランティア活動のために岩手県宮古市に入り色々な活動をしていくうちに、宮古市に居を構えて2013年には「みやっこベース」を立ち上げることになりました。
現在、早川さんは奥様と2人の男の子の子育てをしながら宮古市での仕事をしています。震災当時は高校生だった人たちがそろそろ30代が見えてくる今の時期、東京などに出た後にやはり故郷の宮古市に戻って活動してきたいと思う人たちをサポートしています。
八島 悟 氏(宮古市地域おこし協力隊)

八島さんは2022年4月に宮古市へ移住しました。地域おこし協力隊に従事し、移住者目線からUターンの促進、クリエイティブ業務を頑張っています。八島さんもまた、2023年4月にパパとなり、子育て真っ只中です。今回はパパの移住者という立場での参加となりました。
宮古市は森林率が92%で、森・川・海の絶景がつまった町です。豊かな漁場と山に恵まれ、一年中美味しいものが盛り沢山な場所です。同時に移住という観点では、人の住むエリアがごく一部に限られています。地元の産業や製造業が仙台などの都会と比べると少なく、賃金の面・金銭面での負担が大きいのは事実です。家賃についても県中心の盛岡市と比べてさほど変わらず、移住という部分での課題はまだ多いのが現状です。そのような中で子育てを支援するために充実した支援制度を作って環境づくりを始めています。支援制度には、幼児教育・保育の無償化の対象範囲の拡充(0-2歳も)、住宅子育て支援金制度(所得制限なし)、子ども医療給付事業、こども発達支援センターの設置など独自に行っているものがあります。
上野 英律 氏(南三陸町移住・定住支援センター センター長)

上野さんは2018年から移住支援の仕事を宮城県南三陸町で行っています。東京で生まれ育ち、両親の実家は山梨と秋田ということで、自分自身の故郷はどこなんだろうという思いを抱いていましたが、南三陸町の地域の方々と触れ合うことにより、東北の地に故郷のような感覚を抱くことができました。
南三陸町は、町の形がCの字となっていて、あまり高い波の来ない豊富な養殖場が広がっています。そのために牡蠣やホタテやワカメなどの養殖業が盛んです。最近では農業にも力を入れています。「入谷のササニシキ」などの美味しい米や、ブドウやリンゴや桃やキウイなどのフルーツの栽培にも取り組んでいます。バイオマス産業都市構想という持続可能な街づくりをしていることも注目したいポイントです。住民が生ゴミを分別し、それを肥料として再利用する活動が行われています。森林に関してはFSC、海に関してはASCという国際認証を取って活動を活発に行っています。
上野さんは南三陸町に来て初めて漁師さんと触れ合う機会がありました。自分のイメージでは漁師さんは怖いとどことなく思っていましたのが、接してみると同じ人間だとの親近感を持ち、このような方々が活躍する南三陸町をサポートしたいという思いを抱いて仕事をしています。
栗林 美知子 氏(特定非営利活動法人 ウィメンズアイ 理事)

関西の和歌山県出身の栗林さんが南三陸町に来たのは、大学卒業後の震災のボランティアがきっかけでした。ボランティア活動を2年ほどしていくうちに、東京での仕事を辞めて南三陸町で活動したいと思うようになりました。
栗林さん自身は子育てをした経験はありませんが、子育てに奮闘しているママさんたちに出会って、その声を聞いてそのサポートをしたいと願い、ウィメンズアイを立ち上げました。ウィメンズアイはミッションとして⑴地域女性のエンパワーメント、⑵地域女性を取り巻く環境に手入れする、そして⑶地域女性の声を内外に伝えることを掲げています。「いのちと暮らしを真ん中に自分をいかし歩み続ける女性たち」をビジョンとしています。特にお母さんたち目線での発信そして活動を行っています。
丑田 香澄 氏(一般社団法人ドチャベンチャーズ 理事)

丑田さんは中学生の娘さんと6歳の息子さんの子育てをしながら、秋田県五城目町で出産後のお母さんたちをサポートする活動をしています。
東日本大震災で被災した妊婦さんやお母さんたちをサポートするプロジェクトに加わったことがきっかけで、“産後ドゥーラの育成に励んでいます。現在は、一般社団法人ドゥーラ協会の運営に携わりながら、秋田県五城目町という東北の小さな町から次世代が育つ、そして大人が挑戦できるような街づくりの活動に10年ほど取り組んでいます。産後ドゥーラとは、出産してすぐのお母さんたちに寄り添って支えて訪問支援をする人のことで、助産師や保健士などがなかなか行えない部分を担う役割を果たしています。
さらに一般社団法人ドチャベンジャーズ(略称ドチャベン、土着のベンチャーという意味合いがあります)は廃校を使って、地域活性化支援センター(BABAME BASE)を立ち上げ、廃校シェアオフィスをオープン、「世界一子どもが育つ町」に取り組んでいます。丑田さんは土着のベンチャーを促進していく人たちというコンセプトに街づくり団体を運営しています。
(2)トークセッション―地域での移住支援と子育ての場づくりを知る

ここから、ナビゲーターの原亮(エイチタス株式会社)も交えて、特定のお題にそって意見を述べ合うトークセッションが行われました。
まずは宮古市について、震災当時高校生だった若者たちが社会人となり、東京などの都会へ飛び立ったものの、また地元で生活と活動をしていきたいと思うUターンメンバーが増えてきています。このことから小さい時から地元の活動に子どもたちが関わる(内発的動機付け、内発的アクション、シビックプライド)ことが重要だと考えています。秋田県五城目町のBABAME BASEを例にすれば、子どもたちが外部の様々な背景を持つ違った大人と触れ合う機会が増えるようになっています。多くを知った上で、自分の住む土地の良さを知ることができます。子育てや教育時期での第三の大人との触れ合いが良い刺激になっているようです。
宮古市のNPO法人みやっこベースはまさに、震災からの復興活動を続ける中で見えてきた子どもたちを取り巻く環境の変化と課題に着目しました。宮古市に生きる子どもたち、若者たちが希望と意志を育みながら、未来を切り開いていけるようなベースを作っています。宮古市で実際に子育てをしながらこれらのミッションに取り組んでいる早川さんや八島さんは、移住先で子どもを持ち、子育てに取り組むという難しい問題に対して、相談することのできる人たちの存在や安心感を実感しています。
南三陸町ではまだまだ移住ということになると、独身の方やご年配の方の相談が多いのが現状です。上野さんは今後、南三陸町での子育ての魅力をより発信していく必要性を感じています。その点で栗林さんは現場の声として、お母さんたちの声を上げる場がなかったものが、声を上げ始めていると観察しています。実際に「声が固まりとなってきたところだ」と語っています。
トークセクションから見えてきたのは、「力の集め方」ということです。個々のつぶやきや妄想、そのようなものを集めていくこと、それがまず重要です。この点で秋田県五城目町のBABAME
BASEの取り組みは参考になります。廃校を使って外部からの様々な背景を持つ大人たちを集めたり、学校に町民が集まってもらって街を今後どうしていきたいと思っているか、そのつぶやきや妄想を実際に集めています。そうすると子どもを連れて行ける場所がないから、そのよう場所を作りたい!とか、朝市にここ10-20年足を運んでいなかった人たちに対して、そこに行きたいと思ってもらえるようにして、非常にユニークな発想や取り組みをしている。一人一人の持つアイデアを実現に向けるパワーにして、それを発揮できる、それが移住先での子育てにも大きな影響を与えるということが見えてきました。
最後に第三の大人に対して「面白い大人と変な大人に対するバランスの取り方と、子どもたちに与える影響について」チャットによる質問がありました。宮古市・南三陸町どちらでも言えるのは、多様性のメリットの方が大きいということです。幅はあればあるほど子どもたちに与える良い影響も大きいと観察しています。みやっこベースの早川さんは東京などの都会ではできない部分として、「地域で伴走者となる大人がいて、子どもたちをアフターフォローすることができます」と話を締めくくり、トークセッションは終了となりました。
(3)地域側×参加者同士のブレイクアウトセッション
地域側と参加者の皆さんが一緒にいくつかのブレイクアウトルームに分かれ、移住・子育て・教育についての活発な意見交換が行われました。
地方での子育ての難しさとして、まだまだおじいちゃんおばあちゃんが子育てをサポートする環境なので、移住してきた人たちが安心して子育てできる環境作りをどのように作っていっているのかという具体的なディスカッションがなされました。実際に子育てをしてきた人たちは、保育所に入る前も多くのサポートをしており、それらの必要性を直接町に陳情するアクションを取っていることも聞くことができました。さらに質問として多かったのが、「産後ドゥーラー」の活動と地方における活動についてです。産後ドゥーラーが仕事としてなかなか成立しないのが地方での現状などです。それに対して地方自治体とタッグを組んで今後産後ドゥーラーが活躍できる場を作っていきたいとのことでした。まずは人と人とが交流できるように、人のつながりをもっと持てるように何ができるのか、活発な意見交換がなされました。地域活性化に繋げたいという熱い思いを共有し、盛況のうちにセッション終了となりました。
参考リンク
会議概要
- 日時:2023年12月6日(火)19:00-21:00
- 形式:Zoomミーティングによるオンライン会議
- 参加者数:26名
- 主催:復興庁
- 企画運営:エイチタス株式会社