「大規模災害における避難所運営と子どものケア」 イベントレポート
大規模災害では、沢山の人々が避難所でともに生活を送るという場面が多く見られます。突如発生した非日常の中で、様々な困難やイレギュラーなことが発生し、避難所の運営者には大きな負担がかかります。慣れない環境や人間関係など突然の変化を最も敏感に感じ取るのは、子どもたちです。
東日本大震災と熊本地震のそれぞれで、避難所運営に携わった方々は子どもたちに対し、どのように接してきたのか。
東北からは、ふくしま連携復興センター代表理事の天野和彦さんをお招きしました。天野さんは特別支援学校の教員としての経験を持ち、震災後は「ビッグパレットふくしま避難所」の支援チーム責任者や富岡町生活復興支援センター「おだがいさまセンター」センター長等を務められました。被災した子どもたちに必要なケアのあり方について伺いました。
他地域からは、熊本県・山都町教育委員会教育長の井手文雄さんをお招きしました。井手さんは熊本地震当時、熊本県・益城町立広安西小学校の校長として、申し出のあった支援物資・活動をすべて受け入れる方針のもと、現場教員による自律的なマネジメントを確立しました。外からのあらゆる活動を子どもたちへの機会提供に役立てた考え方やプロセスを伺いました。
災害による環境の変化が子どもたちにどのような体験や影響をもたらし、どのようなケアが必要なのかを考えました。
天野 和彦氏(ふくしま連携復興センター 代表理事)インプットトーク
東日本大震災、原子力発電所事故の時「ビックパレットふくしま避難所」は2,500人以上の被災者を受け入れました。県庁運営支援チーム責任者として運営に携わっておられた天野氏から、避難所の使命である「いのちを守ること」、またそのために人と人がつながる仕組み「交流」の場の提供と「自治」活動の促進の視点についてお話をいただきました。
阪神淡路大震災の経験をベースに、避難所では、足湯とサロン(喫茶スペース)など交流場を設置して自治が生まれていき、住居エリアごとに自治会ができたようです。また生活復興の拠点、心の交流の場として「おだがいさまセンター」も開所されました。
「交流」の場の提供と「自治」活動の促進。「いのちを守る活動」と「生きがいと居場所づくりの活動」が織りなすものが、住民間のつながる力になり、コミュニティ意識が醸成されていくとのことでした。
災害に強いまちとは、人と人がつながっているまちであり、普段から地域をどう作っていくのかが災害時に活きていく、これからは「モノの防災」だけでなく「考え方の防災」が大事なキーワードだと語ってくださいました。
井手 文雄氏(熊本県・山都町教育委員会 教育長) インプットトーク
熊本地震発生時、井手氏が校長を務めていた熊本県・益城町立広安西小学校では、校内に約800名、運動場に約200台の車が避難してきました。また隣接施設「グランメッセ熊本」では車が2千台、約1万人が車中泊する事態になり、広安西小学校の先生たちは、教職員の特性を活かして避難者支援を担うことになりました。
「子どもファースト&被災者ファースト」をモットーに掲げ、支援を受けるときはWin&Winで八方良しを目指したそうです。「復幸」を目指して「安心感」を作り出し、具体策は「見える化」で共有することをキーワードにされました。
安全な避難経路等の再点検や衛生管理の責任体制が必要であること。また「誰ひとり取り残さない視点」として、要支援者の困りごとリサーチ、傾聴による情報収集、信頼関係と支援体制の構築、確実な引継ぎを行われたそうです。
避難者指示の基本精神として、児童のストレス軽減、学校再開後に向けての取組み、職員の負担感軽減等を挙げられました。心のケアの取組みとして、学校心理士による心の相談室、心のサポート授業、朝自習「心のケア」の時間、心のアンケートを行われました。
また、子どもたちに生きがいや楽しいことを経験してもらうために、ボランティア、シェフによる調理実習、運動で楽しく元気になってもらうこと、10年後を担う人材育成を目指した「復幸リーダー新潟研修」として日本海での海水浴や浴衣着付け、佐渡島の夕日を見る等の企画をされたそうです。
安心創造に有効と感じた8つの点を挙げてくださいました。
1.避難者の声を聴くこと
2.カウンセリングマインドを発揮した避難者支援
3.支援の申し出は原則全てwelcome
4.win
& winの関係にコーディネートする
5.避難所の自主運営に人材活用育成の視点
6.直面した課題を解決する対応力
7.行動目的と判断基準を持った決断
8.主体性(仕事は見つけてするもの)
トークセッション
ファシリテーターの原亮(エイチタス株式会社)を交え、登壇者とのトークセッションが行われました。
子どもたちを含めた要配慮者「誰一人取り残さない考え方」は世界の流れであるインクルーシブ防災であることや、子どもの段階から自治は形成されていること。
学校では、先生同士に活気があり、若手も発言できる印象があったことが自主的な活動につながったこと。人、物、活動の支援者皆の心を、折に触れ子どもたちに伝えること。
オルタナティブ教育(学校教育外の教育)という視点では、原発事故の影響を受けた福島県・川内村の「川内ふるさと学」における「3つのきょう育」が紹介されました。
・郷育。ふるさとを「ふるさと」と思えるような子ども
・興育。多面的に地域や社会に興味の持てる子ども
・響育。社会を生き抜く力をもつ子ども
未来への希望とは子どもたちであり、地域コミュニティ教育にとどまらない仕組みが必要であること等が話し合われました。
登壇者と参加者の交流タイム
登壇者と参加者の交流タイムでは、参加者から「地域コミュニティについて考えさせられた」「3つのきょう育が心に響きました」「素敵な学校づくりをされていると感じた」などの感想もきかれ、盛況のうちに終了となりました。
参考資料
- 天野和彦氏(ふくしま連携復興センター)の資料は こちら
- 井手文雄氏(熊本県・山都町教育委員会 教育長)の資料は こちら
会議概要
- 日時:2021年10月20日(水)19:30-21:30
- 形式:Zoomミーティングによるオンライン会議
- 参加者数:50名
- 主催:復興庁
- 企画運営:エイチタス株式会社