第10弾 若者のチカラをつないで岩手を盛り上げる(後篇)

 東日本大震災の被災地では、大きく姿を変えたふるさとの復旧・復興に向かい、困難を克服したり、震災前からの課題を解決したりするさまざまな取り組みが続けられています。本連載では、昨年度「新しい東北」復興・創生顕彰を受賞された個人・団体の活動を紹介します。


 岩手県で若者が主体的に活動するためのネットワークづくりをサポートするwiz。中核事業の一つである就業体験プログラム「実践型インターンシップ」は、地域が抱える社会課題を解決しようという想いを持ち奮闘している企業や団体と学生との間のコーディネートを行っている。

 wizは2017年夏に、26 名の大学生と、県内の7 市町(紫波町、花巻市、矢巾町、釜石市、陸前高田市、大船渡市、住田町)の民間企業など14 社との間で、インターンシップを行った。

 インターンシップの最後に開催された「成果報告会」。

 学生たちが企業の課題解決にどこまで貢献できたのか、プロジェクトの成果や企業にもたらした効果、学生自身がどのように成長したかなどの発表が行われた。学生の発表後には、受け入れ企業側も、学生の変化やインターンシップを実施したことによる影響などについて発表した。

受け入れ起業担当者(右奥の男性)と話すインターンシップの女子学生2人(中央奥).JPG(写真4)受け入れ企業担当者(右奥の男性)と話すインターンシップの女子学生2人(中央奥)


 釜石市内で空き家のリノベーションを手がけるNPO団体のインターンシップに参加した2名の学生は、人口減少にともなう空き家が増える一方で、市外から訪れる人に対する宿泊場所が少ないという地域の問題を解決しようと、実際にリノベーションする家に住み込みながらさまざまな技術を学んだ。

 「田舎にある我が家」をコンセプトに、釜石市を訪れ滞在する人が容易に宿泊できるような場所をつくりだそうとする中で、日々の活動をSNSに投稿し空き家の現状や、リノベーションの事例などのPRも行った。

 2人は成果報告会で、「インターン終了後も作業を手伝ってくれる方々との関係を継続し、次にインターンシップにやってくる学生と地域の方々がつながるようサポートしていきたい」と語った。

 受け入れたNPO団体の担当者は、「(空き家の)再生モデルをつくるという非常に難しいチャレンジであったが、自分たちで課題を見つけ取り組んだことはすばらしかった。ただのDIY作業でなく、リノベーションする家をどのような人たちに利用してもらいたいか、ターゲットを明確に設定し、苦戦したり、工夫したりするなかで多くの地域の方が手伝いに来てくれた。一緒に作業する過程で地域とつながりを生み出すことができたのはよかった」と語る。

 釜石市内で味噌と醤油の醸造を行う老舗の会社でインターンシップをした学生もいる。

 地元住民から長く愛される味を守ってきた歴史のある企業で、味噌や醤油の消費・需要などについて調査し、マーケティングを行った。

 調査方法は、消費者からモニターを募ったり、市内の飲食店をくまなくまわってアンケートをとったり、市内の大型ショッピングセンターで対面販売を行うほか、一般の消費者を交えて行う意見交換会の開催も企画するなど、味噌や醤油のさらなる定着と商品の販売促進のために工夫が凝らされている。

 意見交換会の実施にあたっては、モニターを集めることに苦戦しながらも消費者と直接触れ合うことで味噌や醤油の需要縮小など、現状の課題を知ることもできた。  
 
 インターンシップの最後に2人は、「インタビューの聞き込みがあまかった。モニターの参加者層に一貫性がなかった。広報も足りなかった」と振り返る。

 醸造会社の担当者は「当社は長い歴史はあるが、インターンシップで学生を受け入れたのは初めてのこと。受け入れる側として若干の不安や戸惑いはあったが、(学生たちは)しっかりしていて素直で、企画立案から行動まで素晴らしい活動でした。飲食店や消費者から直接意見を聞くことができ、今後の商品開発の参考になるプロジェクトでした。もうインターンが終わるのがさみしいというのが正直な感想です」と感想を述べた。

  実践的なインターンシップを通じて、学生たちは自身の成長を実感し、経営者は新たな事業の手応えや可能性を見出している。
 

インターン_5.JPG(写真5)ショッピングセンターで対面販売を実施する学生

 
 インターンシップを体験した学生について黒沢さんは、「実際、学生の成長には驚かされます。インターンを通じて顔つき、話し方、すべてが変わっていく。表情から自信を得たのが分かる。何より学生たちが事業の芽、土台をつくりあげたことがうれしい。プロジェクト終了後も、継続的に岩手と関わってもらいたいです」と語った。

 wizはまた、2015年4月から岩手特化型のクラウドファンディング「いしわり」を運営している。

 盛岡市内にある国の天然記念物、石割桜(いしわりざくら)に由来した名前だ。 苦境を乗り越え、力強く生きる。それを喜んでくれる人の気持ちに、精一杯応える。そんな石割桜と人々のような関係を生みだすため、クラウドファンディング「いしわり」は始まった。

P12_いしわりトップ画.jpg(写真6)クラウドファンディングのサイト「いしわり」


 「いしわり」では、岩手をよりよくしたいと考える個人や法人などの「実行者」が、アイデアをプロジェクトとして発信し、それに共感する「協力者」から資金を募る。

 プロジェクトが目標金額に達して成立した場合、協力者はリターン(お返し)を受け取れる。2018 年1月まで30 件以上のプロジェクトをwebサイトで公開し、実行者の多くが目標金額を達成した。

 例えば、岩泉町の小本川(おもとがわ)漁業協同組合は、台風で壊滅的な被害を受けた岩泉の清流に「あゆの稚魚を放流したい」というプロジェクトを発信した。

 あゆの稚魚放流にかかる費用は600 万円を見込み、そのうち9割を400 人ほどの組合員が負担する。残りの1割60万円を「いしわり」で調達したい、というものだった。岩手出身でAKB48 のメンバーとして活躍する佐藤七海さんもこのプロジェクトの応援者となり、県内外69名の賛同者から80万5,000円を集めることができた。  

P12_いしわりプロジェクト.png(写真7)Webで公開されれている「いしわり」のプロジェクト


 千葉県出身で、縫製の盛んな岩手県久慈地域に移住した香取正博さんは「みんなでくじTを着よう!」というプロジェクトを発信。こちらは目標金額100 万円に対して、144 万7,000円が集まった。  

 黒沢さんは言う。「自分たちよりも若い世代に対して、指標のひとつとなるように、アクションを起こし続ける必要があります。続けていくことこそ、大事だと考えています」  

 設立から3年以上が経過し、インターンシップ事業の対象となるエリアの拡大も視野に入ってきた。当初は補助金により運営していたが、現在は自治体からの委託事業が主たる財源となっている。多角的に事業を行うことでひとつの案件への依存度を下げるなど、継続的に事業を行っていくための工夫を続けている。  

 若者がつながって、岩手を盛り上げる。そのためのあらゆる機会をこれからも、wizのメンバーはつくり続ける。

P10_wiz集合.jpg(写真8)wizのメンバーのみなさん

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