第8弾 IT時代の語り継ぎ 「未来への学び」(前篇)

 東日本大震災の被災地では、大きく姿を変えたふるさとの復旧・復興に向かい、困難を克服したり、震災前からの課題を解決したりするさまざまな取り組みが続けられています。本連載では、昨年度「新しい東北」復興・創生顕彰を受賞された個人・団体の活動を紹介します。


 災害とそれに続く復旧・復興支援活動は、多くの教訓を残す。それを体系的に整理し記録、公開するのが、IT企業、グーグルによるプロジェクト「未来への学び」だ。ばらばらな団体・個人の経験を共有の財産にする試みは、IT時代の語り継ぎといえるだろう。

 地震などの自然災害、その後の支援、復旧・復興に向けた活動は、私たちに多くの教訓を与えてくれる。例えば、2011年3月の東日本大震災では、岩手県宮古市に伝えられてきた「津波てんでんこ」という言葉が大きく取り上げられたことは記憶に新しい。

 津波が来たら「取る物も取り敢えず、肉親にも構わずに、各自てんでんばらばらに一人で高台へと逃げろ」という言い伝え、教訓である。何十年に一度という大災害の記憶は、語り継がれることによって、後世の人々のためになることを示している。

 これまでにも、大災害があれば、被災状況に始まり、その後の支援、復旧・復興に向けた活動の様子は、被災した自治体や関係した企業・団体などが記録集や報告書をまとめてきており、「記録と教訓」として後世に残し、共有の「財産」とする試みが行われていた。

 しかし、資料棚の奥で忘れ去られたケースもあると思われる。

 グーグル合同会社(以下グーグル)のプロジェクト「未来への学び」は、災害からの復旧・復興支援で得た知見を、ITという最新の技術を用いて、地域や時間を超えて多くの人と共有しようという試みだ。「IT時代の語り継ぎ」といってもいい。

 東日本大震災が発生した2011年3月11日。グーグルが所在する東京も大きく揺れた。揺れがおさまると、社員はすぐに「自分たちに何ができるか」「何をしなくてはならないか」を考え、仲間とディスカッションしたという。

 その結果、まず始まったのが「パーソンファインダー」というサービスの提供だった。


 サービスの提供開始は、その日の16時32分。地震発生からわずか1時間46分後のことだった。東京でも余震の揺れが断続的に続き、多くの人が家族との連絡や、帰宅方法などを考えていたころである。

 この「パーソンファインダー」は家族や友人などの安否を確認するウェブサービスだ。スマートフォンやPCでサイトにアクセスし、安否を知りたい場合には「人を探している」を選択し、名前や携帯番号などを打ち込めば、登録されている情報が確認できる。逆に「安否情報を提供する」を選択し、自分や家族などの状況を登録すれば、他者が安否の確認ができる仕組みだ。

 東日本大震災では67万件の安否情報の登録があったとされる。その後、熊本地震(2016年4月)でも公開され、多くの人が利用した。

 グーグルはさらに活動の輪を広げた。被災状況を撮影した衛星写真の提供や、前日までに通行実績のあった道路を確認できる自動車・通行実績情報マップの公開、避難所に掲示された避難所名簿共有サービスなど、IT技術を駆使したサービスを展開した。

 中でも注目されるのは2011年7月に始めた「東日本大震災デジタルアーカイブプロジェクト」だ=写真1=。

 岩手、宮城、福島3県の被災地のストリートビュー画像の公開である。画像には、倒壊した家屋や破損した道路などが写っている。プロジェクト実施については、社内でもさまざまな議論があったという。

 しかし、被災自治体などからは、「そのままの状況の記録を残して欲しい」という声があり実施に踏み切った。ストリートビューで撮影されたパノラマ画像は2013年、2016年に更新されている。新たな画像がアップされ、復興の歩みを目で確認できる。

(写真2)東日本大震災デジタルアーカイブプロジェクト「未来へのキオク」.png(写真1)東日本大震災デジタルアーカイブプロジェクト「未来へのキオク」


 こうした多くの取り組みを展開する中から、2016年3月に生まれたのが「未来への学び」というプロジェクトだ=写真2=。

 災害からの復旧・復興支援活動に取り組んだ企業・団体、個人、自治体が、試行錯誤をしながら得たナレッジ(知識、経験)やヒントを体系的に記録し、ネットで公開する。いつでも誰もが活用することが可能な情報のプラットホームである。

(写真3)2016年3月に生まれた「未来への学び」.jpg(写真2)2016年3月に生まれた「未来への学び」

 
 目的は、今後起きるかもしれない災害や復旧・復興支援にあたって、迅速に効果的な対応を取ることを助けることだ。

 このプロジェクトはグーグルの特定のスタッフ・部局が担当しているのではない。中心になっている防災・復興プロジェクトプログラムマネージャー、松岡朝美さんは「特定の固定メンバーではなく、必要な時に必要な人が集まる形で運営しています。自治体の方とのプロジェクトであれば公共政策部のスタッフが参加します。有志が参加することもあります」という=写真3=。

 臨機応変にチームを組んで対処する仕組みであり、機動性を高める意味もある。プロジェクトの根底にあるのは、グーグルが掲げている「世界中の情報を整理してアクセスして使えるようにする」というミッションである。

(写真4)取材時の様子.JPG(写真3)取材時の様子

関連記事
おすすめ 第10弾 若者のチカラをつないで岩手を盛り上げる(前篇)
おすすめ 第9弾 被災地女川を起点に、日本そして世界中の地域の活性、発展、変革を目指す(後篇)
おすすめ 第9弾 被災地女川を起点に、日本そして世界中の地域の活性、発展、変革を目指す(前篇)