みちのくみっけ Vol.7 陸前高田編 2日目

(1日目はこちら)

<2日目>

「箱根山テラス」でとびきりの朝を過ごす

箱根山テラス


陸前高田2日目の朝、窓から差し込む優しい朝日で目が覚めました。ウッドデッキに出て、目の前に広がる空と海を眺めながら深呼吸。木々の香りをめいっぱい吸い込むと、シャキッと背筋が伸びて眠気が吹き飛びました。こんな爽快な朝は久しぶりです。


お気に入りの場所を探したくなる、見晴らしの良いウッドデッキ

お気に入りの場所を探したくなる、見晴らしの良いウッドデッキ


カフェバーでは、スタッフの伊藤さんが朝食を用意してくれていました。


ボランティアを機に東京からIターンをしてきた伊藤さん

ボランティアを機に東京からIターンをしてきた伊藤さん


レシピは南風食堂の三原寛子さんが監修しているそう。ドレッシングやソースは手づくりで、調味料には八木澤商店の味噌・醤油を使っているとのこと。野菜たっぷりでほっとする美味しさでした

レシピは南風食堂の三原寛子さんが監修しているそう。ドレッシングやソースは手づくりで、調味料には八木澤商店の味噌・醤油を使っているとのこと。野菜たっぷりでほっとする美味しさでした


太陽がさんさんと入るあたたかい室内で、雄大な景色を眺めながらいただく健康的な朝食。栄養が体中に染み渡る気がします。


食後はペレットストーブの隣でのんびり

食後はペレットストーブの隣でのんびり


チェックアウトを済ませると、伊藤さんとトミコがお見送りしてくれました

チェックアウトを済ませると、伊藤さんとトミコがお見送りしてくれました


とびきり気持ちいい朝でエネルギーをチャージしたら、箱根山の散策に出発。伊藤さんに教えてもらった「気仙大工左官伝承館」と「箱根山展望台」に立ち寄りました。


箱根山テラスから歩いて数分の場所にある「気仙大工左官伝承館」。立派な木造平屋建茅葺です

箱根山テラスから歩いて数分の場所にある「気仙大工左官伝承館」。立派な木造平屋建茅葺です


明治初期の人々の暮らしが再現された屋内

明治初期の人々の暮らしが再現された屋内


リアス式海岸の地形がわかる「箱根山展望台」。少し霞がかった海と空も日本画のようで綺麗です

リアス式海岸の地形がわかる「箱根山展望台」。少し霞がかった海と空も日本画のようで綺麗です

古き良き日本の田舎を見つけに、矢作町生出ドライブ

箱根山を満喫した後は、矢作町の生出(おいで)地区に向かいました。清水さんはまちあるきイベントでこのエリアを訪れ、以来お気に入りの場所になったといいます。

清水さん 矢作町は昔の暮らしがそのまま残った風情のある地域なんですが、被災していないので全くスポットが当たっていないんです。それがすごくもったいないなと歯がゆく思っていたので、ぜひ紹介させてください!

清水の湧口


最初に車を停めたのは、「いわての名水20選」に選ばれている清水の湧口。神社の横には細い用水路が流れていました。昔話の世界に入り込んでしまったような、懐かしさを感じる風景です。


清水の湧口


清水の湧口


近づいて覗き込むと、水は綺麗に澄んでいました。近隣の方はこの湧き水を生活用水として使っているそう。川で水を汲んだり、野菜を冷やしたり……『となりのトトロ』のような暮らしがいまも残っているのですね。


岩手県交通バス「矢作清水」の停留所


湧口の近くには、岩手県交通バス「矢作清水」の停留所がありました。年季の入った木造の造り。中には漫画や本が置かれ、ツバメが巣を作っています。


岩手県交通バス「矢作清水」の停留所

清水さん 絵に描いたような「田舎のバス停」でしょう? みんなここで写真を撮りたがるんですよ。


飛田 雰囲気があるなぁ。映画のロケ地としても使えそう。

白糸の滝


大滝小滝


こちらは「白糸の滝」と「大滝小滝」です。温泉地のような、情緒ある風景。きっと新緑や紅葉の時期も綺麗なのでしょうね。


川の上に掛けられた原始的な橋


驚いたのが、川の上に掛けられた原始的な橋。基礎こそ鉄骨のようですが、歩く部分はただの木の板です。

飛田 うわぁ~……。手すりもないし、ちょっと足を踏み外したら川にドボンですね。『賭博黙示録カイジ』に出てくる鉄骨渡りみたい。


清水さん 慣れると平気で、おにぎりを持ってきてここで食べたりしています。気持ちいいですよ。この辺りには、住民が自分たちで掛けた橋がいくつかあるんです。


飛田 逞しいなぁ。

手づくり感溢れる造り。風が吹くとドキドキします

手づくり感溢れる造り。風が吹くとドキドキします


駆け足で紹介してしまいましたが、以上が生出のドライブスポットです。陸前高田にこんな日本の原風景のような、隠れ里のような雰囲気の集落があるとは知りませんでした。クリエイターが何日か滞在したら、新鮮なインスピレーションを得られるのではないでしょうか。

清水さん 陸前高田はどうしても震災の印象が強いと思いますが、いつまでも「ボランティアをしに行く場所」ではいけないと思うんです。それだけだとどんどん忘れられてしまう。だから、復興文脈とは関係ないこういった場所もどんどん紹介していきたいと思っています。

「農家カフェフライパン」でお昼ごはん

農家カフェフライパン


さて、あちこち立ち寄っていたらおなかが空いてきました。お昼を食べに、米崎町にある「農家カフェフライパン」へ。オーナーの熊谷克郎さんの実家はりんご農家。12月~2月頃は、旬の米崎りんごを使った料理やデザートがメニューに登場します。


よねさきりんごバーガー


りんごの瑞々しさとフルーティーな香りが印象的な「よねさきりんごバーガー」。ハニーマスタードもいい仕事をしています。ハンバーガー特有のしつこさやジャンク感がなく、爽やかでまた食べたくなる味でした。


よねさきりんごのアップルパイ


一目見て驚いたのが「よねさきりんごのアップルパイ」。今まで食べてきたアップルパイと全然違う! まるでミルフィーユのようです。一口食べて、パイとりんごを分けた理由がわかりました。りんごはとろけるようにまったりと甘く、パイはサクサク。「べちゃっとしたアップルパイは苦手だけど、これは好き!」という人も多いと思います。


オーナーの熊谷さん(左)

オーナーの熊谷さん(左)

熊谷さん 震災前は東京で飲食店の店長をしていました。何もなければずっと東京にいたと思います。でも、震災の被害を目の当たりにして、そのまま東京で暮らす気になれなかったんです。30代の男がいれば、何かできることはあるだろう、と。


この建物は元々りんごの直売所で、仲間とリノベーションしていまの形にしました。りんごを始めとして、地元の素材を使った料理を提供していきたいと思っています。

一年を通して人気の「ごろっと野菜のフライパンカレーランチセット」(920円)

一年を通して人気の「ごろっと野菜のフライパンカレーランチセット」(920円)


直売所だったとは思えないお洒落な店内。キッズスペースもあり、子連れのお母さんたちが楽しそうにおしゃベリしていました

直売所だったとは思えないお洒落な店内。キッズスペースもあり、子連れのお母さんたちが楽しそうにおしゃベリしていました

「産直はまなす」「たがだ屋一本松店」「お菓子工房木村」でお土産を購入

おなかが満たされたら、そろそろ旅のお土産を買いにいきましょう。まずは地元のとれたて野菜や特産品がずらりと並ぶ「産直はまなす」に立ち寄りました。


キャベツが詰め放題で200円!

キャベツが詰め放題で200円!


帰りの新幹線のお伴に「草大福」を購入しました

帰りの新幹線のお伴に「草大福」を購入しました


農家のお母さんたちがおすすめの商品を教えてくれます

農家のお母さんたちがおすすめの商品を教えてくれます


続いて、「たがだ屋一本松店」へ。市内のお土産が一通り揃うお店です。


「奇跡の一本松」にちなんだ商品や、りんご・椿油など地元の素材を使った商品がずらり

「奇跡の一本松」にちなんだ商品や、りんご・椿油など地元の素材を使った商品がずらり


牡蠣のビール、お米のビール、りんごのビールと、ほかにはないご当地ビールも豊富。お酒好きならぜひ!

牡蠣のビール、お米のビール、りんごのビールと、ほかにはないご当地ビールも豊富。お酒好きならぜひ!


3店舗目は、高田町にある「おかし工房木村屋本店」。昭和元年から続く老舗菓子店です。震災により被災しましたが、翌年に仮設店舗で営業を再開し、2015年3月に本設店舗をオープンしました。


甘い香りが漂う店内

甘い香りが漂う店内


ここの一押しは「奇跡の一本松」をモチーフに開発した「夢の樹バウム」。紫波産の南部小麦、小岩井農場のバター、三陸の有精卵、「たかたのゆめ」の米粉と、岩手県産材にこだわってつくっています

ここの一押しは「奇跡の一本松」をモチーフに開発した「夢の樹バウム」。紫波産の南部小麦、三陸の有精卵、「たかたのゆめ」の米粉と、岩手県産材にこだわってつくっています


夢の樹バウムには一口サイズのタイプも。車中のおやつにぴったり!

夢の樹バウムには一口サイズのタイプも。車中のおやつにぴったり!


「おかし工房木村屋」の歴史は和菓子から始まりました。この「けせん坂」は、2013年に天皇皇后両陛下が陸前高田を訪問された際に献上した御菓子なのだそう

「おかし工房木村屋」の歴史は和菓子から始まりました。この「けせん坂」は、2013年に天皇皇后両陛下が陸前高田を訪問された際に献上した御菓子なのだそう


店内には購入した御菓子を食べられる休憩スペースがありました。BRTの駅のすぐそばなので便利です

店内には購入した御菓子を食べられる休憩スペースがありました。BRTの駅のすぐそばなので便利です

清水さんと旅の振り返り

これで2日間の旅も終わりです。帰りの電車まで時間があったので、清水さんの話を聞かせてもらいました。

飛田 東京生まれ東京育ちの人が東北の被災地に移住するって、大きな決断ですよね。なぜ踏み切ることができたんですか?


清水さん 僕はそれまでずっと、教員採用試験を受けては落ちてをくり返していたんですよ。高校大学とスポーツをしてきて、卒業後はどこかのチームから呼ばれるだろうと思っていたけど、声がかからなかった。それで燃え尽き症候群のようになってしまって。勉強もせず、半分引きこもりのような生活をしていたんです。「このままじゃだめだ、とにかく何かを変えないと」という気持ちで移住しました。


飛田 それが今では、陸前高田で暮らすために起業までしちゃったと。


清水さん 最初の一年で、自分に変化が起こったのを感じたんです。あるとき、同僚からメールの書き方についてめちゃくちゃ怒られたことがあって。東京にいた頃の僕だったら辞めていたと思います。人から怒られるのが苦手で、基本的にすぐ逃げるタイプでしたから。でも、そのときは同僚から言われたことを素直に捉えることができたんです。「確かにそうだな、勉強しよう」と。そのことに自分でも驚いて、「この町に来てよかったな」と思いました。

「自分にできることで陸前高田に恩返しをしたい」「仕事をつくってずっとこの町で暮らしたい」と映像制作を始めた清水さん。企業CMや団体のPRビデオ等の製作を請け負っています

「自分にできることで陸前高田に恩返しをしたい」「仕事をつくってずっとこの町で暮らしたい」と映像制作を始めた清水さん。企業CMや団体のPRビデオ等の製作を請け負っています

飛田 すごい変化ですね。陸前高田の何が清水さんを変えたんでしょうか。


清水さん 人との距離が近くて、関わりが深いところでしょうか。素で話せるようになったんですよね。東京にいた頃は、かっこつけて、取り繕って、ごまかしていました。無理してテンションを上げて喋って、家についてどっと疲れるという。でも、こっちにきたらそんな風に自分を偽る必要なんてないな、と。


飛田 いまも、「試験を言い訳にしていた」とか、「怒られたらすぐに逃げた」とか、かなりぶっちゃけてくれましたもんね。


清水さん そういう自分がいたから、高田に魅力を感じることができたんです。だから、昔のことを隠したいとかよく見せたいとか、全く思っていません。むしろ、現代の若者っぽくていいかな、と思っています。東京から移住してきたというと、「ボランティアとか復興関係?」「偉いね」と言われるんですが、「いやただのダメ人間なんですよ」と。


飛田 あぁ、東北に「意識の高い人たちが行くところ」という印象を持っている人って多いですもんね。

「いわて動画コンテスト2016」で優秀賞を受賞した清水さんの作品

いわて動画コンテスト2016」で優秀賞を受賞した清水さんの作品

清水さん 震災のとき、ボランティアもしなければ募金もしなかった人ってたくさんいますよね。そういう人たちは、後ろめたいから東北には来たくないと考えているんじゃないか、と思うんです。でも、もう6年です。もちろん震災は忘れちゃいけないんですが、それだけじゃないよ、普通に遊びに来てよ、と言いたくて。


僕は、この町に来て覆された概念や常識がたくさんあるんです。スーパーに並んでいる刺身を食べるだけで「今まで食べていたものは何だったんだ?」と思うし、みんな日常的に美味しいものを食べているから飲食店のレベルもものすごく高い。


それに、陸前高田にとって2017年は町が大きく変わる転換点になると思います。今年来て一年後に再訪したらどれだけ町が変わったかがわかるはず。都市工学や建築を学んでいる人はもちろん、普通の人にとってもその様子を見るのは面白いんじゃないでしょうか。そういう風に、それぞれの楽しみ方を見つけてもらえたら、と思っています。

車中から見た陸前高田の様子

車中から見た陸前高田の様子

旅を終えて

清水さんが「陸前高田に来て自分を取り繕うことがなくなった」と話していた通り、今回取材した方々もみんな飾らず自然体でした。いいことだけではなく課題も失敗も包み隠さず教えてくれて、「そんなことまで話してくれるなんて」と驚いた程です。自分を大きく見せようとしない、地に足のついた生き方が、潔くて美しいな、と感じました。


陸前高田は東日本大震災により、最も大きな被害を受けた町のひとつです。中心部は工事の真っ最中で、風景を眺めているだけだと復興は遠いように見えるかもしれません。でも、町の人に話を聞くと、いまの状況や、陸前高田の人々が持つ底力がみえてくると思います。特に、今回紹介したお店の方々は優しくあたたかく接してくれるので、ぜひ話しかけてみてください。


旅を終えて


< 陸前高田1泊2日観光モデルプラン >

1日目

7:56 東京駅発(はやぶさ101号)/一ノ関でJR大船渡線に乗り換え
11:47 気仙沼駅着/駅前でレンタカーを借り、陸前高田へ
13:00 「陸丸」で人気メニューの「陸丸丼」を味わう
住所:陸前高田市高田町字大隈93-1-2
電話:0192-47-3653
*陸丸丼650円
14:30 「浄土寺」から中心市街地を眺める
住所:陸前高田市竹駒町字仲の沢24
16:00 「八木澤商店本店」で「奇跡の醤」を購入
住所:陸前高田市矢作町字諏訪41
電話:0192-55-3261
http://www.yagisawa-s.co.jp/
「一本松店」で醤油ソフトを食べる
住所:陸前高田市気仙町手影150-1
電話:0192047-4371
*醤油ソフト300円
http://www.yagisawa-s.co.jp/
17:00 くまカフェで休憩
住所:陸前高田市高田町鳴石22-9
電話:0192-22-7311(りくカフェ)
*コーヒー350円~
18:00 黒崎仙峡温泉でゆったりお風呂に入る
住所:陸前高田市広田町黒崎9-41
電話:0192-57-1126
*入浴料500円
http://www.kurosaki-onsen.com/
20:00 箱根山テラス
住所:陸前高田市小友町茗荷1
電話:0192-22-7088
*宿泊費:10,000円
http://www.hakoneyama-terrace.jp/

2日目

9:00 チェックアウト
10:15 矢作町生出を散策
12:30 「農家カフェフライパン」でランチ
住所:陸前高田市米崎町樋の口63-2
電話:0192-55-3358
*よねさきりんごバーガー800円、よねさきりんごのアップルパイ580円
https://www.facebook.com/FRYINGPAN2014/
13:20 「産直はまなす」で野菜や食材を購入
住所:陸前高田市米崎町字川向146-1
電話:0192-47-4270
https://santyoku-hamanasu.jimdo.com/
13:40 「たがだ屋 一本松店」でお土産を選ぶ
住所:陸前高田市気仙町字土手影138-5
電話:0192-22-7700
http://rikutaka.jp/
14:00 「おかし工房木村屋」で休憩
住所:陸前高田市高田町字栃ヶ沢220-1
電話:0192-55-2825
http://okashitsukasa-kimuraya.com/
15:00 陸前高田発、気仙沼でレンタカー返却
16:15 気仙沼発(JR大船渡線)/一ノ関ではやぶさ108号に乗り換え
19:56 東京駅着

今回の旅の費用

交通費:40,000円
宿泊費:10,000円
飲食代:2,680円~
温泉入浴料:500円
お土産代:4,000円
合計:57,180円~

※2017年2月時点の情報です。訪問する際は、現住所・定休日・営業時間をご確認ください。


(Vol.8 会津編はこちら)

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