<2日目>
「おしか御番所公園」で朝日を拝む
石巻2日目の朝、6時半に起きて牡鹿半島の先端にある「おしか御番所公園」へ朝焼けを見に行きました。高台からは、ぐるりと海を一望できます。淡いグラデーションを描きながら明るくなっていく空。数秒ごとに、印象派の風景画のように見えたかと思えば北斎の浮世絵のような表情が現れ、見飽きることがありません。
こちらは御番所公園からちょっと下がったところからの眺め
港では既に漁師さんたちが働いていました
牡鹿半島ドライブ
「民宿めぐろ」で朝食を食べたら、再び車に乗ってドライブへ。複雑に入り組んだ地形が特徴の三陸海岸。くねくねと蛇行する道は、車酔いする人にはちょっと酷かもしれません。まずは、石巻の隣町・女川駅前に立ち寄りました。
坂茂さんが設計した新駅舎から海に向かって建ち並ぶのは「シーパルピア女川」、2015年12月にオープンしたテナント型商店街です。震災直後に瓦礫だらけだった風景を思い出すと、「こんなお洒落な場所に生まれ変わるなんて……」と感慨深い気持ちに。
「シーパルピア女川」には、飲食店や雑貨店、工房など27店舗が入っています。そのうちのひとつ、「マザーポートコーヒー女川店」でコーヒーとドーナツを買い、再び出発しました。
ここは、雄勝町波板地区の防潮堤。側面を埋め尽くすのは、波板の特産品・波板石です。
津波の被害を軽減する効果がある一方で、海辺の景色を変えてしまう防潮堤は、長年海に親しんできた地元の人々にとって複雑な存在です。そこでこの集落の住民たちは、思い出の詰まった波板石を貼ることで、防潮堤に「メモリアルウォール」という新たな意味合いを持たせたのです。
近くには、津波に流されオアフ島に辿り着き、2016年2月に波板に戻ってきた「第2勝丸」も置かれていました
ゆくゆくは、この浜を地域公園化して、より多くの人を浜辺に呼び込もうと考えているとのこと。すぐそばには「波板地域交流センター」があり、町民が出迎えてくれるので、ぜひ立ち寄ってみてください。
次に停車したのは、波板から20分ほど北に向かったところにある長面地区です。
加納さん この一帯は元々陸地だったんですよ。146世帯の集落があったそうです。
飛田 え? この一帯って、目の前のこの海岸のことですか? ……嘘でしょう?
加納さん 震災で地盤が沈んで、そこに海水がなだれこんだそうです。潜ると数メートル下に家の土台が残っているそうですよ。
信じられない、と絶句してしまいましたが、古いカーナビの画面には、確かに陸地として表示されていました。
石巻駅前や女川駅前のように新たな産声をあげた場所もあれば、取り残されたような状態になっている場所もある。そのことをまざまざと思い知らされました。
海だけでなく川も美しい石巻。ヨシの群落を見ながら北上川沿いをドライブ
途中、大川小学校で手を合わせました
「川の上・百俵館」でお母さんたちの手づくりごはん
川沿いを走り続けると、川の上地区にある「川の上・百俵館」に到着しました。ここは、大正時代に建てられた農協の精米所を改修してつくられた“まちの図書館”です。壁は全国から寄付された本で埋め着くされていました。訪れた人はお茶を飲んだりお喋りしたりしながら、自由に本を読むことができます。
百俵館にはカフェが併設されていて、地元のお母さんたちが運営しています。ここでお昼ごはんにしましょう。
限定10食の土曜日ランチ(600円)。お米も野菜もこの地域でとれたものばかり
優しい味の手づくり料理を味わいながら、カフェスタッフの高橋信子さんに百俵館の成り立ちを聞きました。
高橋さん 百俵館は、川の上地区の住民と、仮設住宅で暮らしている方々との交流を生むためにできた場所です。定期的にイベントやワークショップも開催しているんですよ。
にこやかに接客してくれた高橋さん
長面のように居住できなくなった地域の住民は、慣れない土地で暮らしていかなくてはいけません。一方、移転先地域も突然人が増えて環境が変わります。放っておくと分断や衝突を生みかねません。だから、こういう場所が必要なのですね。
行政主導ではなく、地元の人が手を動かして交流の場をつくったという点がすばらしいな、と思いました。
地元パン屋のパンを使ったピザトースト(500円)
駅前にできた「石巻ASATTE」でお土産を物色
牡鹿半島ドライブを終え、再び石巻の町中に戻ってきました。レンタカーを返し、2016年11月にオープンしたばかりの「石巻ASATTE」へ。ここは、レストラン&カフェ、食料品店、生活雑貨店が入った複合店舗です。
今回のお目当ては、「石巻うまいものマルシェ」。地元企業10社が立ち上げた「石巻うまいもの株式会社」の直売店です。牡蠣グラタン、チーズホヤ、サンマカレーなど、東京では中々見かけない加工品がずらりと並んでいました。
加納さん 今まで、町中で地元の水産加工品を買えるお店があまりなかったんですよ。ぜひ帰る前にここへ立ち寄って、お土産を選んでほしいです。
お洒落なパッケージで揃えた「ISHINOMAKI IPPIN」シリーズは友人や家族へのお土産にぴったり
「IRORI石巻」で旅の振り返り
被災したガレージをセルフリノベーションしてつくった「IRORI石巻」
旅の終わりに、「ISHINOMAKI2.0」が運営するコワーキングスペース兼カフェ「IRORI石巻」で加納さんの話を聴かせてもらいました。
お洒落なコーヒースタンド。コーヒー一杯350円~
飛田 加納さんは大学院を卒業後、一般企業で正社員として働いていたんですよね。石巻に来るのは大きな決断だったんじゃないですか?
加納さん 震災後ずっと何だかんだと理由をつけて東北に関わっていたんですが、町を再建しようと前向きに動く人たちを見ているうちに、「この人たちと一緒に何かできたら」「私もプレイヤーとして関わりたい」と思うようになったんです。ものすごくホワイトで退職者がほとんどいない企業だったから、辞めるといったときは社内の人からすごく驚かれました。
飛田 いまはどんな仕事を?
加納さん ISHINOMAKI2.0の中で、「いしのまき学校」というプロジェクトを担当しています。高校生が地域を舞台に、自分の好きなテーマでプロジェクトを立ち上げるという教育プログラムです。
ファッションショーや謎解きイベントなど、さまざまなプロジェクトが高校生発信で行われています
飛田 面白そう! 若いうちから自分の町に関わる機会があるっていいですね。
加納さん 「いしのまき学校」の高校生たちに、中学校のキャリア講話で登壇してもらったんですよ。そうしたら、「"石巻つまんない"って出ていくのもひとつの選択だから別に構わないけど、本当に石巻のことを知った上で言っているのか考えてみてほしい。知ろうとしたら、きっと自分が興味を抱けるものが見つかるはずだから」と話してくれて。その言葉に、町の大人たちがハッとして、「中高生が来たくなる商店街にしないと」と奮起していました。
飛田 そういう高校生たちが町を担うプレイヤーになったときが楽しみですね。話を聞いていると「石巻って面白い町なんだな」と感じますが、実際の住み心地はいかがですか?
加納さん 暮らしやすいですよ。徒歩圏内で一通りのものが揃うし、美味しいものがたくさんあるし。石巻にすっかり胃袋を掴まれちゃいました。人との距離感もちょうど良いんです。町中を歩いていると知り合いに声をかけられるけど、知り合いばかりで息苦しいというほどでもない。
IRORI石巻には、石巻でつくられた小物を展示販売するスペースも。こちらは「石巻工房」の布小物
被災したお母さんたちがつくる鹿角と漁網のアクセサリー「OCICA DEERHORN DREAM CATCHER」
飛田 東京や愛知に戻ろうかなと思ったことは?
加納さん ないわけじゃありません。でも、私は元々おせっかいおばさん気質なんですが、石巻はそんな私のおせっかい心をくすぐるものがたくさんあるんですよ。「え、こんな魅力あるのにPRしてないの?」とか、「こんないいものを壊しちゃうの!?」とか、「もったいない!」と感じるものが次々現れて。しかも、それに対してアクションができる町なんですね。
でも、長く住んでいると色んな事情が見えてきて、「まぁ仕方ないよね」と思いがちです。完全に地元目線になってしまったら、いる意味はありません。まだよそ者目線を持てている内は、おせっかいしていきたいなと思っています。
飛田 観光地としての石巻の魅力はどういうところにあると思いますか?
加納さん うーん……正直に言うと難しいなと感じるところもあって……。魅力はたくさんあるので誰かに案内してもらえれば楽しめると思うんですけど、ふらっと来た人はどこへ行ったらいいかわからないかもしれません。良くも悪くも変化が激しいから、町歩きのためのフリーペーパーをつくっても半年経つと情報が古くなってしまって。ちゃんとした観光地として安定するのにはあと数年かかるかもしれません。
でも、この変化の大きい時期に来て、町が成長していく様子を見るのは意義のあることだと思います。実際に、震災後ずっと通い続けている人も多いんですよ。
加納さん あと、石巻はシャイな人も多いから、「地方は人の距離が近くて温かい」というイメージで来ると少しがっかりするかもしれません。私も万人に話しかけられるタイプじゃないから、最初は恐る恐る声をかけて仲良くなっていきました。でも、いざ話してみると、たくさん喋ってくれるんですよ。
中でも今回立ち寄ったお店の人は気さくに話してくれる人ばかりなので、ぜひ勇気を出して話しかけてみてほしいです。そうすると、石巻の面白さを知る扉が開かれるんじゃないかな。
石巻から東京へ
IRORI石巻で加納さんと別れた後、少し時間があったので駅構内にある「マンガッタンカフェ えき」で電車を待ちました。
店内には石ノ森章太郎キャラクターのフィギュアがずらりと並んでいます。
シフォンケーキとコーヒーで一服し、17時53分発の仙石線に乗りました。2時間半後には、もう東京です。
旅を終えて
「田舎は好きだけど、文化的な刺激や新しい人との出会いがなくて物足りない」。そんな風に思ってIターンやUターンができずにいる人って多いのではないでしょうか。その点、石巻は暮らすのにちょうど良い町だと感じました。お洒落なカフェやギャラリーがあって、毎週のようにイベントが開かれて、ちょっと車を走らせれば美しい海や川があって。都会と田舎のいいとこ取り、ですね。
復興まちづくりに関心がある方、自分の住む地域を盛り上げたいと考えている方。ぜひ一度、石巻を訪問してみてください。きっと、たくさんのヒントが得られるはずです。
< 石巻1泊2日観光モデルプラン >
1日目
8:20 | 東京駅発(はやぶさ5号)/仙台駅でJR仙石東北ラインに乗り換え |
11:17 | 石巻駅着 |
11:30 | すし寶来でランチ 住所:石巻市千石町1-3 電話:0225-22-1258 *金華すし2,000円 金華丼1,620円 http://www.i-kanko.com/archives/363 |
12:30 | 石巻駅前をウィンドウショッピング ・FUNADE studio 住所:石巻市中央1-4-3 電話:0225-98-8683 http://funade311.com/ ・観慶丸本店 住所:石巻市中央2-8-1 電話:0225-22-0151 http://kankeimaru.com/ ・かめ七呉服店(コミュニティカフェ かめ七) 住所:石巻市中央2-4-18 電話:0225-22-0506 http://ishinomaki2.com/comikame/ |
14:00 | Tree Tree Ishinomakiで石巻こけし絵付け体験 住所:石巻市立町2-5-19 電話:090-6629-5151 *こけし製作費2,000円 https://www.facebook.com/treetreeishinomaki/ |
15:00 | 駅前でレンタカーを借り、牡鹿半島へドライブ |
15:30 | カフェはまぐり堂で一服 住所:石巻市桃浦字蛤浜18 電話:0225-90-2909 *二種盛りジェラート480円/常長ココア550円 http://www.hamaguridou.com/ |
17:30 | 民宿めぐろにチェックイン 住所:石巻市小渕浜カント2-1 電話:0225-46-2515 *1泊2食7,560円 http://oshika-meguro.com/ |
2日目
6:00 | おしか御番所公園で朝日を眺める 住所:石巻市鮎川浜黒崎 |
7:30 | 宿で朝食 |
9:30 | 牡鹿半島ドライブ |
11:30 | 川の上・百俵館でお昼ごはん 住所:石巻市小船越字山畑343-1 *土曜日ランチ600円、日曜日ランチ800円 電話:0225-24-6625 http://kawanokami.com/hyappyokan |
14:30 | 石巻ASATTEで水産加工品をお土産として購入 住所:石巻市立町2-5-5 電話:0225-25-7905 http://asumachi.com/ |
15:00 | IRORI石巻でひとやすみ 住所:石巻市中央2-10-2 電話:0225-25-4953 http://irori.ishinomaki2.com/ |
17:00 | マンガッタンカフェえきで電車を待つ 住所:石巻駅構内 *シフォンケーキセット650円 |
17:53 | 石巻駅発(JR仙石東北ライン)/仙台駅でやまびこ54号に乗り換え |
21:04 | 東京駅着 |
今回の旅の費用
東京からの往復交通費(レンタカー代含):31,000円~
宿泊費:7,560円
体験費:2,000円
飲食費:5,210円
お土産代:4,000円
合計:49,770円~
※2017年1月時点の情報です。訪問する際は、現住所・定休日・営業時間をご確認ください。